「足りている」と「足りていない」が両立する3つの理由
日本はナフサの約6割を輸入に頼り、その輸入分の8割を中東産が占めている。残り4割の国内生産も原油の中東依存度が高く、中東情勢の悪化は日本のナフサ調達を直撃した。柳本氏によれば、紛争前と比較して輸入総量は7割程度に減少している。
しかし政府は「ナフサは足りている」「絶対量の不足ではなく、サプライチェーン上の目詰まりが起きているだけだ」と説明する。現場では悲鳴が上がっているのに、なぜ政府はそう断言するのか。柳本氏はその矛盾を3つの視点から紐解いた。
理由1:「副産物」の絶対的不足
ナフサを分解すると、約半分はエチレンとプロピレンになる。これらに関して日本はかつて輸出超過だったため、輸入が7割に減っても輸出分を国内に回せば需要は十分に賄える。「ポテトチップスの袋がなくなる心配は全くない」と柳本氏が断言するのはこのためだ。
問題は、ナフサ分解時に約15パーセントしか取れない「副産物」の方にある。トルエンやキシレンといった芳香族類やC4留分である。これらはシンナー、塗料、インク、断熱材の重要な原料だが、現在生産量が大幅に減少し、国内の出荷需要を満たせていない。
では、トルエンを増やすためにナフサを大量に分解すればいいかというと、それは経済的に不可能なようだ。ナフサを分解すれば同時に大量のエチレンも生産されてしまうが、現在アジア市場ではエチレン市況が悪化しており、作れば作るほど巨額の赤字になる。その赤字分をわずか15パーセントの副産物の価格に上乗せすれば、非現実的な価格に高騰してしまうからのようだ。
不足しているのは「ナフサ全体」ではなく、「一部の副産物」なのだ。
理由2:価格高騰と不透明感が生む「目詰まり」
現場への影響には、複雑な「目詰まり」の構造も絡んでいる。上流のメーカーが不安から供給を絞ると、中間業者は在庫を温存し、下流からは「出し控え」に映る。さらに価格転嫁のタイムラグも事態を悪化させる。原料は値上がりしたのに、自社製品を値上げできるのが数か月先となれば、赤字を避けるため生産を控えるしかない。
一方で下流では、大企業や消費者が「安いうちに」と買いだめに走る。各企業が合理的に動いた結果、全体のバランスが崩壊し、市場からモノが消えているのだ。
理由3:「日本だけ良ければいい」は通用しない
紛争の影響で、中国や韓国のナフサ輸入量も激減している。日本はアジア最古の石化産業を持ち、膨大な量の石油化学製品を海外からの輸入に頼ってきた。原油備蓄が少ない他国が自国優先で輸出をストップすれば、日本が輸入に頼っている製品が突然入ってこなくなるリスクがある。














