連日ニュースで飛び交う「ナフサ不足」という言葉。しかし、その報道を耳にするたび、実際にナフサを調達している人たちはやるせない憤りを抱えているという。
「『ナフサが不足している』とメディアに連呼されると、悲しくなると言っていましたね」
石油化学コンサルタントの柳本浩希氏は、そんな現場の痛切な声を代弁した。高値であってもなんとか原料を買い付け、工場の装置を止めまいと必死に駆け回っている人々からすれば、その嘆きは当然のことだ。では、実際のところナフサは足りているのか、それとも足りていないのか。長年ナフサを取り扱ってきた柳本氏が導き出した答えは、一見すると矛盾している。「両方とも真である」というのだ。
(TBSラジオ「荻上チキ・Session」2026年5月22日放送「足りてる?足りてない?イチから学ぶ『ナフサ』」より)
そもそもナフサとは何か――「ガソリンになれなかった」厄介者の歴史
ナフサとは、製油所で原油から生産される軽質な石油製品である。端的に言えば「ガソリンになりきれなかった、透明で軽い液体の油」を総称してナフサと呼ぶ。英米圏の造語であるガソリンなどと異なり、ナフサはアッカド語など古代の言語に語源を持つ。
「もともとはガソリンにも灯油にもならないものとして扱われ、当初はただ燃やされて処分されるなど、目的生産物ではありませんでした」と柳本氏は説明する。かつてアメリカではランプの燃料として使われたこともあったが、あまりに軽く揮発性が高いため、家で火を点けた瞬間に爆発し、多くの死者を出した悲惨な歴史もあるそうだ。
しかし現在、ナフサは私たちの日常生活を根底から支える、なくてはならない存在だ。ナフサを「ナフサクラッカー」と呼ばれる巨大な装置で熱分解すると、多種多様な石油化学原料が取り出せる。エチレンからは食品包装のフィルムやガソリンタンクが、プロピレンからはお菓子の袋が作られる。さらに塩と合成すればガス管などの塩ビ樹脂になり、ベンゼンと合わせれば発泡スチロールの原料になる。
柳本氏が「日常生活を支えるすべてのものに入り込んでいる」と語る通り、建材からスポーツウェア、インクに至るまで、プラスチック製品のほぼすべてがナフサから生まれている。現在、世界では毎日約1億バレルの原油が消費され、そのうち約1,000万バレルがナフサとして生産されている。














