「野球協約」強化のさなか寄せられた“情報提供”

熊﨑は2004年9月に検察庁を定年退官。2005年1月に正式にプロ野球「コミッショナー特別顧問」に就任する。

当時、猪狩とともに暴排に取り組んでいたのが、読売巨人軍の親会社・読売新聞社の法務部長だった山口寿一(現・読売新聞グループ本社社長)である。

めざしたのは、プロ野球の“憲法”ともいえる「野球協約」に明確な「暴力団排除条項」を盛り込むことだった。

改定作業は容易ではなかったが、約1年をかけて実現した。それまで協約で禁じられていたのは「野球賭博」のみ。新たに加えられたのは、暴力団など反社会勢力との「交際」そのものを禁じる規定だった。違反者には、最大で無期失格処分という極めて重い制裁が科されることとなった。

熊﨑は周囲にこう語っている。

「私設応援団が選手や関係者を招いてパーティーを開くことが頻繁にあった。そこに暴力団幹部や組員が出入りし、選手とツーショット写真を撮り、祝辞を求める。そうした写真が外部に流出することもあった。暴力団関係者との交際や接触そのものを断ち切らなければならなかった」

だが皮肉にも、その約10年後、「野球協約」違反となる巨人選手の野球賭博問題が発覚。熊﨑自らが記者会見で、選手の契約解除と球団への制裁金を発表することになるとは、このとき誰が想像しただろうか。

2004年は、警察の捜査にも大きな動きがあった。

ある日、猪狩のもとに一本の極秘情報が寄せられる。告発の対象とされたのは、阪神タイガースの私設応援団「中虎連合会」の元会長だった。

この元会長は、山口組宅見系に属していた元暴力団員とされる人物である。情報によれば、同氏らは、長年「作者不詳」とされてきた阪神タイガースの応援歌を悪用し、日本音楽著作権協会(JASRAC)に対して、「作詞・作曲は中虎連合会である」と虚偽の申告を行い、著作権使用料を不正に得ていた疑いがあるという。

事案を精査した猪狩は、これは単なるトラブルではなく、「刑事責任を問える案件だ」と判断した。そして、刑事告発することを決めた。