コロナ禍で困窮する女性の象徴としてクローズアップされるようになった「生理の貧困」
長崎市では昨年、民間のボランティア団体が発足しナプキンの無料配布に取り組んでいます。活動を通して見えてきたのはコロナ禍の貧困と暴力でした。

長崎市在住、中山 安彩美さんです。
仕事と2人の子育ての合間を縫って市内のトイレを駆け回る日々を送っています。無償で生理用品を提供するためです。

この日までの提供枚数 25,157枚!
昨年10月、県内の6団体が共同で「『生理の貧困』対策プロジェクト」を発足させました。目指すはクラウドファンディングで集めた資金で「生理の貧困をどうにかする!」

中心メンバーの1人である中山 安彩美さん(35)は婦人科クリニックで働く看護師です。学校や企業で性教育も行っています。

院長の安日 泰子 医師もメンバーの1人。
2人はコロナ禍の女性達が直面している深刻な現実に日々向き合っています。

やすひウィメンズヘルスクリニック 安日 泰子 院長「性的虐待の紹介例、当院は結構、多い方なんですね。毎年数例あるんですが(昨年9月から)2か月の間に4例、立て続けにありまして。これはやっぱり異常だなと思って」
コロナ禍で潜在化しているとみられる家庭内暴力ー。
児童相談所による『虐待の相談対応件数』は2020年度、20万件を超え、過去最多に。
また内閣府の外郭団体に寄せられた『性暴力の相談件数』は、今年度上半期でおよそ3万件と、前年度の1・3倍に増加しており、コロナの影響が特に女性や子供に及んでいることが伺えます。

国もコロナ禍で増加する性暴力を背景に『緊急避妊薬』を医師の処方箋なしに購入できる”市販化”に向けた検討を始めました。

”72時間以内に飲めば高い確率で妊娠を防ぐ”
場合によっては女性の身を守ることになる、この薬──、長崎市のやすひクリニックでは昨年9月からのわずか2か月間に、性被害を受けた10代の女子4人が服用。加害者は実の父親と養父でした。

『生理の貧困』対策プロジェクト・ながさき 中山 安彩美さん
「二次被害とよく言うんですけど、問診や声掛けの中で、再度傷つけたりしないような配慮みたいなのは、みんなで心掛けてやってはいます。私自身が最初『生理の貧困』ってざわざわし始めた時に、ぴんと来てなくて。そんな人がいるんだ…くらいだったんですけど、(性被害者らも)生理の貧困の当事者だったんだと気が付いたりということがあって」
経済的な理由でナプキンが買えない「生理の貧困」。
また生理のことで困っていても、家庭環境や恥ずかしさなどで周囲に言えない状態もまたコロナ禍で増えている「生理の貧困」と言われています。

今回、クラウドファンディングで集まった支援は236万円。中山さん達はその全額をナプキンに変えて設置場所を探すほか、ひとり親家庭の支援を続けている民間団体「つなぐBANK」におよそ6千枚を提供することにしました。

「コロナになって父子家庭の相談が多くなった。あとは妊娠の相談が増えている。学生さんの、若い子の妊娠相談が」
「つなぐBANK」代表理事 山本 倫子さんは、ひとり親家庭の支援を始めて12年。コロナについて、特に非正規で働く人達への影響が大きいこと、また支援につながっていない家庭が少なくないことを指摘しています。

「(長崎市内の)アパートにいる双子の子供さんのご飯を作りに行ってくれということで支援に出ました。『昨日何食べた?』って聞くと、一人の子は『ケチャップ』。一人の子は『マヨネーズ』って答えたんですね。冷蔵庫を開けると何もない。マヨネーズとケチャップをゆすいで飲んでた子供達だったんです。実はこういう子供達が一家庭ではなくて、本当に沢山あって。長崎市内、長与、時津、色んな所に私達、支援に行ってました。気づいたのが、医療福祉法律など色々な支援専門機関が地域に沢山ある。ただ、そこまで行きつくことができない家庭が多いと言う現実が分かったんです」
"支援の手が届かない人達がいる"
中山さん達は、設置するナプキンに、"支援情報につながるQRコード"を添える事にしました。トイレというプライベート空間を活かした静かで新しい支援の形です。

1月に設置を開始した長崎市のアマランスでは、まん延防止の休館を挟んで2か月の間に854枚が使われています。

長崎市民会館 アマランス 坂本 惠子センター長「ナプキンのある!って声が聞こえてくる。このQRコードの向こうには "誰か助けて下さる方がいるんだ" とナプキンをもらった方が受け止めて下されば一番いいと思います」

そして昨年12月には、『つなぐBANK、ひとり親家庭への支援物資提供』に参加。
この半年間で配布した総数は30の施設や団体に対し、5万枚を超える見込みです。
支援のナプキンを受け取った女性「助かる…嬉しい」

「消費が多いものなのですごく助かります。やっぱり一人で育てるのは大変なこともあったりするので、ああ、一人じゃないなっていうのは感じます」

やすひウィメンズヘルスクリニック・安日 泰子 院長「女性の身体の事は自己責任化されるんですよね」
「単なるナプキン配布から社会がこれだけ支援したいんですよって言うメッセージにまで広がるので、ナプキンというツールが魅力的だなと実感しましたね。この半年で」
トイレの生理用品が当たり前になって女性達の安心に、そしてどうしようもない苦しみの救いにつながるように。
ナプキンには『一人で悩まないで』というメッセージが込められています。

『生理の貧困』対策プロジェクト・ながさき 中山 安彩美さん
「 " つながれ!! " と思っています。ナプキンを使う事もだけど、(ナプキンを通して)困ってる人が、必要な連携先とつながれたらいいなと思っています」
取材・報告 NBC長崎放送 古川 恵子 記者
中山さんたちの支援活動は元々、2022年3月で終了する予定だったそうなんですが、クラウドファンディングで目標の2倍近いお金が集まったこともあり、今後も活動を継続していくことになったそうです。
また長崎県では、今年度から県立学校のトイレに生理用ナプキンを無料設置するようになりました。