■拒絶され、叱責され…積み重なった人間不信と複雑な事情

特別養子縁組斡旋事業部「ベビースマイル」 鈴木久美子さん

Aさんは、勇気をふり絞って、相談の電話をかける。電話を受けたのは、民間の特別養子縁組斡旋事業部「ベビースマイル」で相談員をする鈴木久美子さんだった。

鈴木さんは、これまでに1000人以上の妊娠の相談を受けてきた。Aさんに限らず、孤立する女性たちの多くが、予期せぬ妊娠で葛藤しても、相談すること、SOSを発することにはハードルがあると話す。

特別養子縁組斡旋事業部「ベビースマイル」 鈴木久美子さん
「予期せぬ妊娠をして、他に相談するところがない孤立した女性たちは、人間不信だったり、人を頼ることに不安を感じている傾向があります。

背景には、これまで助けを求めても拒絶されたり、叱責された経験が積み重なっているからだと思います。なので、予期せぬ妊娠をしたと相談したら、怒られるんじゃないか、責められるんじゃないかと不安で、SOSを発するのがとても難しいのだと思います」

相談さえしてくれれば、実際の対応は真逆だという。女性を、責めたり、怒ったりすることは絶対にしない。特に大切にしているのは、“常識”で判断しないということだ。

鈴木久美子さん
「私のところには、中絶できない段階にある女性の相談が多く来ます。常識で考えると、初期の段階で妊娠に気づきますよね。ですので、なんで気づかないの?って、多くの人は女性たちに厳しい目を向けがちです。だけど、本人にしてみたら、気づかなかったことが真実なんです。

だから、常識的には気づくよね、ではなく、彼女の話を聞いて、彼女の状況を受け入れて、じゃあ、こうサポートしていこうと、彼女の状況に寄り添って支援を進めていく必要があります」

予期せぬ妊娠で孤立する女性に、常識で判断せず、寄り添う支援が必要なことを示すこんなデータもある。

特定非営利活動法人ピッコラーレが「にんしんSOS東京」につながった相談記録を集計分析した『妊娠葛藤白書』によると、若年層で中絶ができない段階での相談は、一般的な妊婦とは状況がかなり違うことを指摘している。相談内容が、家族関係、社会環境、経済環境、相手など、本人以外に起因するものが多く、自分だけでは解決できない複雑な困難を抱えているというのだ。

相談を受ける鈴木さん「女性に寄り添い、常識で判断しない」

特殊な環境に置かれている女性たちにとって、一般的で常識と思われるアドバイスは問題解決には至らない。それどころか、女性をより孤立させる可能性もあると、鈴木さんは警鐘を鳴らす。

鈴木久美子さん
「こうしたほうがいいよ、あなたのために言っているんだよ、というような常識を押しつけるようなアドバイスはしないようにしています。それを言うと孤立した女性たちは、この人は自分をわかってくれない、と感じて、再び自分の殻にこもってしまいます。

追い込まれた女性が瞬間的に出すSOSを察知して、あなたはどうしたい?と女性の声に耳を傾ける支援が重要なのだと、皆さんに知ってもらいたいです」