夜遅く連れ出された人は・・・思わず「アッ」

巣鴨版画集より

スガモプリズンでは夕食後、「ビジット」といって、他の人の部屋を訪れることが許されていた。その時間が終わり、ほっとしたところで動きがあった。

<冬至堅太郎の日記 1949年9月15日木曜日>
鳥巣さんは床をのべて休み、私はしばらく法隆寺壁画の本をひろげていると、カチャカチャと房の扉をあける音がする。鳥巣さんも耳をすませる。「おかしいですね、今頃…」曳きだされるのはいつも八時から八時半ごろで、こんなに九時半頃になって来るはずはない…しかし下駄の音がきこえる。「鳥巣さん、やっぱり誰か処刑されるようですよ・・・足音は一人の様です」
房を一つ一つ訪問して挨拶するらしく、下駄の音が近づいて来た。誰だろう、声が低くてわからない。私たちの部屋の前に来た人を見て思わず「アッ」と言ってしまった。岡田閣下である。