ステップを踏むことが大事! 音と触れ合う練習法「けんかと仲直り」

では、どのようにすれば内的フィードバックの力を育てることができるのか。

小畑教授は、遊び感覚で取り組めるトレーニング「声の『けんかゲーム』と『仲直りゲーム』」を推奨している。

ポイントは、一人で練習せず、正しい判断ができる「信頼できる誰か」と一緒に音の響きを体感することだ。

(小畑千尋さん著『さらば!オンチ・コンプレックス』をもとに作成)

(1)声のけんかゲーム
相手が出した「ラー」という音に対して、あえて「違う高さ」で発声する。
音がぶつかり合い、耳や体がムズムズするような「心地よくない感覚」をあえて知る。

(2)声の仲直りゲーム
相手の声と同じ高さで発声する。2人の声の高さが合ったら、その声を大きくしながらそのまま3秒間伸ばす。

小畑教授
「音がピッタリ合い、声のボリュームを増幅させると、体に『ビビッ』とくる感覚があったりします。共鳴感覚ですね。その感覚の言い方は人それぞれですが、共鳴感覚から、まずは『これが同じ高さなんだ!』と体感することが重要です。この成功体験を重ねることで、内的フィードバックは確実に磨かれていきます」

特にパターン4(まいごタイプ)の人は、自分の声が合っているかが分かっていないため、つい相手の「顔色」を見て正解かどうかを判断してしまいがちだ。

しかし、大切なのは相手の反応ではなく、自分の体や耳に伝わる響きに神経を集中させること。焦らず、その感覚を探すプロセスそのものを楽しむのがコツだそう。

(イメージ)

もし、ここからさらに歌の練習を積み重ねたい、あるいは、カラオケで一曲歌えるようになりたいと思うなら、選曲も重要になる。
いきなり難易度の高い曲に挑戦すると、掴みかけた感覚がまた分からなくなってしまうこともあるからだ。

まずは音域が狭く、ゆったりした「わらべうた」などから始め、確実に音が重なる感覚を積み上げていくのがよいだろう。

「今さら練習しても…」と諦める必要はない。小畑さんの研究では、大人であっても内的フィードバックを意識することで、着実に上達することが分かっている。生涯を通じて、歌唱力は向上させることができるのだ。

小畑教授
「何より大切なのは“リラックス”すること。歌は体が楽器だから、緊張してガチガチになると声ものびやかに出ません。『この人の前なら失敗しても大丈夫』と思える安心できる環境で、声を重ねる心地よさを味わってみてほしいと思います」

「音を外す恐怖」の正体は、能力の問題ではない。自分の声に耳を澄ませる“内的フィードバック”がまだ眠っているだけかもしれない。

自分のパターンを知り、適切なステップを踏めば、歌はいつからでも上達する。まずは一音だけでも「誰かの声と自分の声とが合う心地よさ」を分かち合うことから始めてみてはどうだろうか。

取材協力:小畑千尋さん
文教大学 教育学部 発達教育課程教授
博士(教育学)、専門は音楽教育学

東京音楽大学音楽学部ピアノ専攻卒業、千葉大学大学院教育学研究科、東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了、宮城教育大学音楽教育講座准教授を経て、2021年より現職。

オンチ克服に関する特許を取得。著書に『オンチは誰がつくるのか』(パブラボ)、『さらば!オンチ・コンプレックス 〈OBATA METHOD〉によるオンチ克服指導法』(教育芸術社)など。