「命のビザ」杉原千畝に救われた家族を持つユダヤ系作家

筆者は銃撃事件発生から2日後、銃撃事件の現場近くに住むユダヤ系作家のリンダ・ロイヤルさんを取材した。彼女の友人も銃撃当日の祭りに参加していたが、間一髪で難を逃れている。

リンダさんの祖父母と父親は、1940年、「命のビザ」で知られる杉原千畝が当時の日本政府の許可を得ず独断で発行したビザにより、ナチスのホロコーストから逃れた。その後日本を経てオーストラリアに渡った家族の実話を元にして、リンダさんは去年、小説『The Star on the Grave』を発表した。

取材に答えるユダヤ系作家のリンダ・ロイヤルさん

事件現場に近いユダヤ教の礼拝所シナゴーグの中で、インタビューに答えたリンダさんは、「ボンダイビーチのハヌカの祭りでは、ユダヤ人コミュニティの警備もいましたが、できることには限界があります。もし橋の上から長距離射程のある狩猟用ライフルで狙撃されたら、防ぎようがありません。私たちは安全だとは感じていません」と語った。

さらに彼女は、豪政府がこれまで反ユダヤ主義を放置してきたとしてこう批判する。

「政府に対しては以前から警告していましたし、情報機関も政府に対し、攻撃が起こる可能性があると警告していました。残念ながら、時間の問題だと分かっていたのです。そして実際に起き、現実となりました」

豪政府は更なる厳しい銃規制とヘイトスピーチ対策を検討

この事件を契機に、オーストラリア政府は銃規制の強化を打ち出している。アルバニージー首相は銃の買い戻し計画を発表、数十万丁に及ぶ銃器を回収・廃棄する方針を示した。

また、州レベルでも過激な旗やシンボルの掲示を規制する新法案を検討していて、ヘイトスピーチやインターネット上の過激な表現に対する規制強化が議論されている。

オーストラリアに限らず、現在日本でもヘイトスピーチやネット上の過激な表現が社会問題となり、多様性への理解不足が摩擦を生むことがある。悲劇が起きてから対策を講じるのではなく、日常の段階で憎悪や分断に対して断固として立ち向かう社会体制が今後必要になってくるかもしれない。