15人が犠牲になったシドニーの銃乱射事件。多くの豪国民がショックを受ける中、一筋の光となっているのが、銃撃犯に素手で立ち向かった移民男性。第二次大戦中に多くのユダヤ人を救った日本人外交官、杉原千畝にゆかりのあるユダヤ系作家もこの男性の“善意と勇気”を称賛している。TBSテレビの飯島浩樹・シドニー通信員による緊急報告。
2025年12月14日、オーストラリア・シドニーの人気ビーチで、ユダヤ教の祭りに集まった群衆が、反ユダヤ主義的な容疑者から銃撃され、15人が死亡した。襲撃は多数の参加者を一瞬にして恐怖と混乱の渦に陥れ、銃規制が進み多文化が共存する“平和な国”オーストラリアの安全神話を脅かすような出来事となった。
事件の背景としては、長引くパレスチナ自治区ガザでの紛争に伴う「反ユダヤ主義」に対するオーストラリア政府の対応の遅れなどが挙げられており、事件をきっかけにさらなる衝突や分断が広がる懸念もある。
一方で、身を挺して銃撃犯から銃を奪ったイスラム教徒の一般男性の行動が、世界中で称賛された。宗教対立や国家同士の“憎しみの連鎖”を超えた“一個人の善意”が、一筋の希望の光として注目されている。
観光名所の美しいビーチで起きた惨劇
乱射事件の現場は青い海と約1kmに及ぶ白い砂浜が三日月型に広がるボンダイビーチ北端の公園。日本や世界各国から多くの観光客も訪れる場所で、毎年ユダヤ教の光の祭り「ハヌカ」と呼ばれるイベントが行われる。その日はクリスマス目前の日曜日、気温は30℃、南半球の夏の青空が広がるなか、家族連れのユダヤ系市民ら約1000人が祭りを楽しんでいた。
しかし、サマータイム(夏時間)で辺りはまだ明るい午後6時47分、会場の公園は突然複数の発砲音と悲鳴に包まれた。
銃撃を乱射した容疑者は2人。交通量の多い幹線道路からビーチに面した公園を結ぶ高さ約3メートルの歩道橋の上から、複数のライフル銃などで祭りの参加者らに狙いを定め次々に発砲した。
後に筆者が独自に入手した祭りの参加者が撮影した映像には、5分間以上に渡り数十発を超える銃声と、子どもらの泣き叫ぶ悲鳴が記録されていた。
撮影者のイーライ・ベンシオンさん(70)は、当時妻と共に祭りに参加していたが、銃撃が始まると咄嗟にプラスチック製の椅子の下に身を隠し地面にひれ伏した。
イーライさんが筆者に見せてくれた映像には「橋の上から銃を撃ち続けている!警察はどこだ?何をしているんだ!!」と英語とヘブライ語で叫び続けたあと、銃撃を受け負傷した複数の人たちが横たわり、救命措置を受けている様子が生々しく映し出されていた。
17日、銃撃で死亡したユダヤ教の宗教指導者の葬儀会場で筆者の取材に答えたイーライさんは、「銃撃犯はとても落ち着いていて、自信満々に見えた。彼らは銃を持って周辺を歩き回り、ポケットから銃弾を取り出して装填し、1発ずつ時間をかけて撃っていた」と少し顔を紅潮させながら当時の状況を詳しく話してくれた。
銃撃の犠牲者には10歳の女児から第二次世界大戦中のホロコーストを逃れてオーストラリアに移住した87歳の男性も含まれていた。














