高市総理の「台湾有事」をめぐる国会答弁をめぐり、日本と中国の間に波紋が広がっています。

 中国が台湾に対して武力を用いた場合、日本の“存立危機事態”になりうるとして自衛隊が武力行使に踏み切る可能性を示したことに中国側が猛反発。中国の外務省が14日に当面日本への渡航を控えるよう呼びかけ、文化観光省も16日夜、日本への旅行を控えるよう注意喚起を行いました。

 今後の日中関係は改善が見込めるのか?また、悪化した場合の懸念点は?政治ジャーナリスト・武田一顕氏の解説です。

「実態がそうである」という本音がぽろっと出てしまった?

 事の発端となったのは、11月7日の衆議院予算委員会での高市総理大臣の“台湾有事”をめぐる答弁でした。

 民主党政権時代に外務大臣を務めた立憲民主党の岡田克也議員による「どういう場合が存立危機事態か?」という質問に対して、高市総理は台湾有事を念頭に「戦艦を使って武力の行使を伴うのであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースであると私は考えます」と発言しました。

 この発言について、北京特派員の経験がある政治ジャーナリストの武田一顕氏は「“いらんこと”を言った」と評価。そして、存立危機事態については「政府内などで共有している考えですが、歴代の総理はこのことについて言わない作戦=あいまい戦略を取ってきた。それを、高市総理が明言したことによって、台湾有事が起きて武力の行使を伴った場合、仮にアメリカが台湾を守るために軍を出した場合は、日本がは協力して一緒に戦争するという宣言だと中国側は受け取った」と分析しました。

―――「これを言うと問題になりますよ」と誰かが止めたりはしなかったのでしょうか?

 (武田一顕氏)「総理の勉強会などで『言わないでください』と言われてはいたものの、きっとこれが高市総理の本音なのです。もし仮に台湾有事が起きた場合には、日本への貿易などがすべて止まるので、日本の実態はまさにそうであるということ。アメリカ軍が介入すれば日本も協力する、というのは日本では外務省も防衛省もシミュレーションをしていたので、高市総理としては実態がそうであると、ぽろっと言ってしまったのでしょう」

―――中国側がいまのような反応を示すということを想定はできていたものの、思わず出てしまったと。

 (武田一顕氏)「その通りです。台湾というのは中国においては内政問題で、自分の国の領土問題だと捉えていますから、反応せざるを得ない。台湾に介入してきた場合には、その何倍で返すと言わざるを得ないのです」

―――質問した立憲民主党の岡田議員の意図はどう考えますか?

 (武田一顕氏)「岡田議員は高市総理の本音を引き出すことによって、政権の体力を奪おうとしたのでしょう。岡田議員もこのこと=存立危機事態を言ってはいけないと百も承知で何度も聞いた。それによって政府与党の失点を引き出したという意味では、野党としては当然の振る舞いと考えられます」

発言の3日後に“軌道修正” 中国側の受け止めは?

 高市総理は3日後の10日、衆議院予算委員会で次のように話し、軌道修正を図りました。

■最悪のケースというものを想定した答弁
■従来の政府の立場を変えるものではない
■撤回や取り消しをするつもりはない
■今後は特定のケースの想定の明言は慎む

―――これについて中国の受け止めは?

 (武田一顕氏)「『撤回はしない・明言は慎む・従来の立場から変わっていない』という言い方をしていますから、それだと中国側は収まらないことなります」

 11月13日に石破前総理はTBSラジオの番組で「歴代政権は避けてきた発言であり、抑止力の向上にもつながらない」と話しています。

日本への渡航自粛の呼びかけ「来年の旧正月にかなり影響が出てくるおそれも」

 中国外務省は14日、「日本の指導者が台湾に関して露骨に挑発的な発言をした」として、日本への渡航を自粛を呼びかけました。そして16日には中国教育省が「中国人を狙った犯罪が多発し、安全リスク高まる(根拠を示さず)」として日本への留学を慎重に検討するようと発信しました。そして16日の夜には文化観光省も訪日自粛の注意喚起をしたということです。

―――中国の呼びかけは効果が出るのでしょうか?

 (武田一顕氏)「日本の外務省は、中国で日本人を殺傷するような事件が起きていることから、例えば日本人の学生が中国に修学旅行に行くのは十分注意してくださいと通知を出しています。私たちは、中国から日本に来るのは安全だと思っていますが、例えば2004年、小泉元総理が靖国参拝を繰り返していたときには、大阪の総領事館に右翼の街宣車が突っ込むという事件も起きました。そういったことを考えると、中国側も何かあったらまずいので一応注意を呼びかけます。そうすると、来年2月の旧正月の休みにはかなり影響が出てくると予測されます」

外務省アジア大洋州局長の訪中は「中国側の怒りの本気度の確認が目的」

 日中関係の悪化で今後の懸念点として挙げられるのは次の4つです(武田一顕氏)

■訪日自粛から勧告に→可能性あり
■日本産の水産物の輸入→可能性なし
■日本人駐在員の拘束→可能性あり
■レアアースの輸出停止→可能性あり

―――このあたりのカードを中国側が切ってくることも考えられるということですね。

 (武田一顕氏)「特に日本側が懸念しているのがレアアースの輸出停止です。これはアメリカのトランプ大統領と中国がやりあったときも、このカードをちらつかせたことでトランプ大統領が折れた部分がある。日本もレアアースが中国からこないと非常に困る。様々な開発などが止まりますから、その意味ではレアアースの輸出停止が中国側から見れば一番効果があるし、日本としては最も困る制裁措置になります」

 こうした状況の中で行われる17日の外務省アジア大洋州局長の訪中は「これ以上過激な反応しないで」というくぎを刺すことと、中国側の怒りの本気度を確認することが目的だろう、というのが武田氏の見立てです。

 (武田一顕氏)「局長間というのはレベルとしてはまだ低いですから、何か実質的な交渉をする部分ではありません。そうではなくて、レアアースの輸出停止や日本人駐在員の拘束をを本当にやるのかということを見るために行ったと見るのが一番自然でしょう」

22日・23日のG20首脳会議で中国側との接触あるか

 台湾有事をめぐる日中関係の悪化をどうおさめていくのか。武田氏は「日本側に打つ手はない」とした上で、「時間が経つのを待つだけ」と話します。

 そんな日本と中国が会談の場を設けられそうなのが、11月22日・23日に南アフリカで開催されるG20首脳会議です。中国メディアによると、会議には中国の李強首相が出席します。

―――日中会談、あるいは立ち話だけでもあるのでしょうか?

 (武田一顕氏)「李強氏は共産党のナンバー2ですが、習近平国家主席とは力が全然違います。かなり下のナンバー2ということになるので、話をしても…というところはありますが、それでも会談ができれば、それは中国側も改善したいというサインでしょう。立ち話だけだとなかなかわかりませんが、高市総理はおそらく李強氏に突進していってでも立ち話を実現させようとするでしょう」