男女のすれ違いを“対立”ではなく“共存”として描く
本作のリアルな“価値観のすれ違い”描写について、谷口氏は「鮎美と勝男、どちらか一方が悪いという描き方をしないように意識している」と話す。
「どの作品でもそうですけど、何か問題が起きた時に“どちらかが悪”ということは、あまりないと思っていて。今も勝男と鮎美の関係の中で、どちらかが悪いとか、どちらかに比重が乗ることはあるかもしれません。でも、問題が起きた時にお互いが同時にそれを取り除こうとすることが大事なんです。私の中では、“片方が変われば解決”ではなく、両方が少しずつ改善していくことで問題が解けていく、という考え方があるんです。たぶんその考え方が、作品にも出ていると思います」。
一部の読者からは「実は鮎美が原因だったのでは」という声も寄せられるが、谷口氏はその見方にも慎重だ。
「そういうことではなくて…本当に難しいのですが、だからこそ漫画で描いているんだと思います。鮎美の家庭環境や見てきたもの、そして勝男との閉鎖的な関係性――いろいろな背景が重なって問題が生まれている。だから、どちらかが悪いとか、どちらかだけが変われば解決、というものではないんです」と語る。
登場人物を一方的に裁くことなく、それぞれの視点から“リアルなズレ”を丁寧に描く谷口氏の筆致。そこには、現代の夫婦関係やジェンダー観の複雑さを真正面から見つめるまなざしが息づいている。
もし鮎美と勝男の“その後”を描くなら? そう問うと、少し笑いながら「離婚後の2人とか」と話す。「“老害ショック”もあったので(笑)、30代後半になった2人を描くのも面白いかもしれません。今の自分の年齢に近いリアルを見た作品になりそうです」。
谷口氏のまなざしの先には、常に“変わっていく人たち”の姿がある。“その後”を描く日も、そう遠くはないかもしれない。
谷口氏が描く本作は、“変わっていく人たち”の物語。「鮎美が自分の足で悩みに向き合う巻になる」と谷口氏が語る最新第4巻は、12月10日(水)に発売予定だ。
完璧ではない登場人物たちが、それでも少しずつ歩み寄ろうとする姿は、現代を生きる私たちの姿と重なる。「どちらが悪い」「どちらが正しい」ではなく、互いの違いを見つめ直す――。
そんな視点を持つことの大切さを、物語を通して静かに伝えている。
切さを、物語を通して静かに伝えてくれる。














