無責任な飲酒運転が、またも未来ある1人の若者の命を奪った。
犠牲となったのは、その年に就職したばかりの当時24歳の男性。事件に遭わなければ、翌日から家族と年末年始の休暇を過ごすはずだった。
過失運転致死などの罪に問われている被告の男(61)は、あろうことか、飲酒後に1~2時間ほど眠っただけで大型トラックを運転していた。法廷では、“衝突したのが人と思わなかった”という旨の主張を展開した。
大阪地裁での裁判を詳報する。(松本陸)
“早めに業務を終えたい”と考え… 酒気帯びで自家用車や大型トラックを運転
起訴状や検察官の冒頭陳述などによると、落合登被告(61)は、去年12月27日の午前2時から午後1時ごろまで大型トラック(車両総重量約25トン・車長約12m)の配送業務を行い、その後帰宅して飲酒。
次の業務は翌28日深夜からの予定だったが、“年末のため早めに業務を終えたい”と考え、同じ27日の午後8時ごろ、自家用車で勤務先に向かった。
そして再び、同じ大型トラックのハンドルを握り、堺市西区の道路で事件を起こす。交差点を右折する際に、横断歩道を自転車で渡っていた男性(当時24)をはねたり轢いたりし、男性を死亡させた。
落合被告は過失運転致死と酒気帯び運転のほか、救護や通報をせずにその場を走り去ったとしてひき逃げの罪にも問われている。被告は公判で、過失運転致死と酒気帯び運転の罪は認めたものの、ひき逃げの罪は否認している。
発泡酒を缶1本、焼酎水割りをコップ3杯… 約1~2時間寝ただけでハンドル握る

検察官の説明や被告の公判供述によると、落合被告は事件当日、午後2時半ごろから自宅で飲酒。
発泡酒350ml缶1本と、麦焼酎の水割りをコップで3杯飲んだ。飲み終わったのは午後6時ごろだったという。
その後、たった1~2時間ほどだけ寝て、午後7時50分すぎに車で勤務先に向かった。
(9月16日の被告人質問 大阪地裁・以下同)
弁護人「なぜ車を運転する予定だったのに、お酒を飲んだ?」
被告 「酔いがなかったと思っていたので」
被害者は再発進したトラックに轢過された…

落合被告は、勤務先でアルコールチェックをすることなく、大型トラックに乗り込んだ。普段は横断歩道に歩行者がいないかを、窓を下げて目視で確認していたというが、事件時は怠ったという。被害男性の自転車のライトにも気がつかなかった。
(7月1日の被告人質問)
検察官「どうしてこの日は、普段の確認をしなかった?」
被告 「アルコールのこともあるので、確認不足だったと思います」
検察官「前方のどのあたりを見ていた?」
被告 「横断歩道のまだ先ですね」
そして、自転車と衝突する。
(7月1日の被告人質問)
被告 「ゴーンという音がした。ごみでも踏んだのかと思いました」
「自分では意識はしていないが、いったん止まったと思います。いったん止まって、ゆっくり徐行していった」
落合被告は、約20秒停止を続けたあと、再び大型トラックを発進させた。公判では、“その後の車体の揺れには気づかなかった”という旨を述べた。
検察官の論告によれば、被害者は大型トラックにはねられたあと、トラックの車底部に入り込む形となり、抜け出すことができないまま、約25秒後にトラックに上半身を轢かれたという。
落合被告がトラックを止めたままでいれば… 被害者は一命をとりとめていた。
“ぶつかったのが人だと思わなかった” 理由は「記憶がない」

そもそもなぜ、落合被告は再び大型トラックを発進させたのか。
(7月1日の被告人質問)
検察官「ぶつかったのが人だと思わなかった理由は?」
被告 「記憶がないので…」
被告 「人だとは分かっていません。分かっていたら、止まっていると思います」
検察官「当時は人だとは思わなかったと?」
被告 「はい」
検察官「横断歩道上で何かにぶつかったのなら、人を思い浮かべると思うんですけど?」
被告 「その時はもう記憶がないので… 後でわかったので」
先述の「ゴーンという音がした」という供述についても、落合被告は同じ日の審理で、“実際は、取り調べ時にドライブレコーダーの映像を視聴して認識した”と述べるなど、供述の変遷も見せた。
落合被告は再発進したあと、100mほど先の別の交差点で信号待ちのため停車。そこで、目撃者に呼び止められた。
逮捕後の警察の取り調べでは、“目撃者が必死にジェスチャーをしているのを見て、衝突したのが人だと分かり絶望した”という旨を述べたという落合被告だが、公判の被告人質問ではこの点も「記憶にないです」と答えた。
自宅で飲んだ酒の種類や量ははっきりと覚えているのに、事件の核心部分の記憶はあいまいで、非常に不自然な印象を受ける。
(9月16日の被告人質問)
弁護人「被害者に対してどんな気持ち?」
被告 「大変なことをしてしまいました。取り返しのつかないことをしました」
弁護人「遺族に対しては?」
被告 「被害者の方の命を奪い、大変申し訳なく思っています」
「被告は態度で私たち家族を何度も裏切り、深い傷を負わせている」

亡くなった男性(当時24)は病気を乗り越えて大学を卒業し、去年4月に就職したばかりだった。事件がなければ、翌日から年末年始の休暇を家族で過ごす予定だった。
10月14日の公判では、男性の父親が意見陳述を行った。
「息子はスポーツマンシップを地で行くような、本当に誠実で優しい息子でした」
「妻には事件の詳細を伝えていません。息子の死を受け入れるだけで精一杯だからです。被告の姿を見たら、気が狂ってしまうでしょう」
「私は、落合を絶対に許しません。お前は反省しなくても、刑期を終えれば生きて出てくるが、息子はもう二度と生きて帰ってこない」
「被告は一生反省しないでしょう。裁判が終われば、息子のことも私たちのことも忘れ、ただ何年刑務所に入るかしか興味はないでしょう。逆に私は、息子を殺された悲しみと怨念の深い闇の中で、一生生きていくことでしょう」
「今回の事件、私は殺人だと思っています。被告は息子を殺したあとも、態度で私たち家族を何度も裏切り、深い傷を負わせています。どうか被害者を救ってください」
強い怒りがにじんだ父親の言葉を、落合被告は伏し目がちに聴いていた。
検察は懲役7年を求刑 判決は11月18日
検察官は論告で、「運転していたのは大型トラックの中でも特に大きく、事故を起こせば重大事故になることは自明の理であるから、酒気帯び運転などという危険な行為は厳に慎むべきであった」「被告が被害者との衝突後に確認を怠ったのは、飲酒運転や事故の発覚をおそれ、すぐにその場を去りたかったことも要因とうかがえる。いずれにせよ、被告が被害者を轢過しなければ救命の可能性も十分に認められたのであり、過失は極めて重大」と糾弾。懲役7年を求刑した。
一方で弁護人は、執行猶予付きの判決を求めた。
落合被告の最終陳述は、至って淡白だった。
(10月14日の最終陳述)
裁判官「最後に述べたいことはありますか?」
被告 「いえ、ありません」
判決は11月18日に言い渡される。














