「仮名はなにがいいですか?」「小川さゆりでお願いします」

取材が終わり別れ際、最後の質問。

「仮名、どんな名前がいいですか?」

私は「仮名」の場合、取材相手本人にその名前を決めてもらうことにしている。様々な事情により実名を出せない場合であっても、その方が思い入れや、重みも違ってくると感じているからだ。

「小川さゆりでお願いします」

そして、彼女は小川さゆりになった。

小川さゆりさん(2022年8月の取材で)

顔を出すことについては、最後の最後まで悩んでいたように思う。放送の数時間前に、不安を打ち明ける電話がきたからだ。それでも、彼女は顔を出して訴えることを決めた。

リスクを覚悟の上で。

「こういう人間がいて こういう苦労をしてきて こういう被害を受けて発信していると明確に見てもらうには顔を出した方がいいと思った。自分の息子や これからの宗教2世の子供たちの状況が変わるなら今自分が受ける被害は気にしていられないなと」(8月の取材で)

その後、宗教2世を救済するための法案成立にむけ、働きかけをはじめた小川さん。

一方でその名が広まるとともに、誹謗中傷にもあってしまう。

「私は被害者を代表している」

12月8日 衆議院通過後の取材の際の小川さゆりさん(仮名)

「やっぱり顔を出している分いろんな被害者の言葉とかがすべて自分の言葉のように捉えられてしまう。私の場合は 自分が献金した立場ではないので 自分へ攻撃が向いてしまう」(12月8日 衆議院通過後の取材で)

取材を通してずっと気になっていたことがある。行動の原動力となっているものは何か。小川さんの答えは明確だった。

「声を出せない被害者を代表して来ている。自分がしっかりしていなかったら、被害者もまかせられない」
(10月7日 外国特派員協会での会見後の取材で)

体調も崩しても、何度も心を奮い立たせ、12月9日 小川さんは参考人質疑の場に立った。

「毎日 現役の信者や一部の人から嘘つきなどいわれ 体調を崩した時もある。

本日国会で正式な参考人として発言できることを感謝します」
(12月9日 参議院・特別委員会の参考人質疑で)

取材をはじめた7月から133日、被害者救済法が成立した。

後編はこちら→「親からの裏切り」貫いた「覚悟」そして彼女は「小川さゆり」となった 顔を隠さず被害訴える旧統一教会・元2世信者【後編】

MBS報道情報局
山口綾野