■変わる南西防衛 沖縄では部隊を増強、「戦傷医療」も強化へ

では、新しい安全保障関連3文書は、南西諸島の防衛力をどう強化するのだろうか。

防衛省幹部によると、那覇市に拠点を置く陸上自衛隊・第15旅団が増強される見通しだ。現在、約2200人が配置されているが、地上での戦闘などを行う普通科連隊を1つから2つに増やすことが検討されているという。

旅団の名称も「沖縄防衛師団」に変更することが検討されている。その上で、指揮官の階級を現在の陸将補から陸将に格上げし、住民の避難が必要となった場合などに自治体との連携が容易にできるよう、指揮官に調整の権限を持たせる方向だ。

また部隊の増強に伴い、各部隊への弾薬や燃料などの分配を調整する「補給処」と呼ばれる機関の支所を沖縄本島に創設することも検討している。
 
防衛省は、敵の脅威圏の外から発射できる長射程のスタンド・オフ・ミサイルとして、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾能力向上型」の開発を進めている。2026年の部隊配備を目指しており、政府が保有する見通しである「反撃能力」への行使も検討されている。

南西地域では現在、奄美大島と宮古島に「12式地対艦誘導弾」を保有するミサイル部隊が所在しており、今年度中に石垣島、来年度末には沖縄県の勝連にも配備される予定だ。防衛省関係者によると、「能力向上型」が装備化されれば、これらの部隊で順次、現在の誘導弾から置き換える予定だという。

また弾薬庫については、陸上自衛隊が2035年までに、新たに約90棟を整備する方向で調整しているというが、沖縄県内では新たに設置する場所が限られているため、在日米軍の弾薬庫を共同使用することが案となっている。

有事において、負傷した自衛隊員らを治療する「戦傷医療」も課題だ。

防衛省幹部によると、那覇基地内にある「自衛隊那覇病院」を2027年に建て替える方針だ。那覇病院は、南西地域で有事が発生した際に沖縄県での医療拠点となる病院で、先に述べた「キーン・ソード」でも、けがをした隊員らの治療や搬送などの訓練が実施された。

那覇病院の建て替えは、施設の老朽化も要因のひとつだが、「戦傷医療」の機能を強化することも目的だ。麻酔科・精神科の新設や救急科の増強を行い、有事の際に速やかに病床を増やすことができるような設計を検討しているという。
防衛省の来年度予算案に、建て替えの基本設計に必要な経費が計上される見通しだ。

■急ぐ防衛力強化 浜田防衛大臣「力による現状変更を許容しないとの意思を示す」

「南西地域の離島防衛は本当に課題山積だが、可能な限り早期にしっかりした態勢を実現しないといけない」防衛省幹部は言う。

政府が南西地域の防衛態勢の強化を急ぐ背景について、浜田防衛大臣は「力による現状変更を許容しないとの我が国の意思を示し、島嶼部への攻撃に対する抑止力・対処力を高め、国民の安全に繋がるものであると考えている」今月6日の会見でこう述べた。

ロシアによるウクライナ侵攻で、宇宙やサイバー、電磁波や認知領域といった新しい戦い方が出現した21世紀にも、火力による殺傷が起こりうると明らかになった今、不透明に軍備拡張を続ける中国を隣に、同じ悲劇を起こさない防衛力を培うことが日本にとって急務である。

TBSテレビ政治部 防衛省担当
岩本瑞貴