4. まとめ

今後、AIが人間のカウンセラーに取って代わるようなことはあるのだろうか?私は部分的にはそうなると考えているし、すでにそうなりつつあると考えている。しかし、AIが人間のカウンセラーと完全に置き換わってしまうことはないだろうし、望ましいことでもないとも考えている。

その理由の1つは、悩み相談においては、AIには人間のカウンセラーに取って代わることができない領域があるということにある。身体で感情を体験し、有限の生を生きている人間どうしの心の出会いに基づくカウンセリングは、AIには代替できない。

また別の理由は、人は誰しも、自らの不完全さや弱さを受け入れ、互いに助け合って生きていくのが、成熟した人間社会のあり方だと考えるからである。悩みを機械であるAIに相談して解決するというのは、結局は、悩みを一人で抱え、人に頼らずに自力で解決するということに他ならない。そういう解決の仕方もあって良いが、弱さを隠して誰にも頼らずに生きていこうとするのは、強がった生き方であり、寂しい生き方である。

AIが人間のカウンセラーに完全に取って代わってしまうような社会は、便利な社会ではあっても、心豊かな社会であるとは言えない。

<執筆者略歴>

杉原 保史(すぎはら・やすし)
1961年生まれ。京都大学 学生総合支援機構 学生相談部門長・教授。
京都大学教育学部、同大学院教育学研究科にて臨床心理学を学ぶ。
教育学博士(京都大学)、公認心理師、臨床心理士。

専門はカウンセリング心理学で対人援助を実践、研究している。 
主な著書に「プロカウンセラーの面接の技術」(創元社 2023)「SNSカウンセリング・トレーニングブック」(共編著 ・ 誠信書房 2022)「SNSカウンセリング・ケースブック」(監修・誠信書房 2020)など

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。