3. 相談相手としてのAIのメリット
もちろん、悩み相談の相談相手として、対話型AIには潜在的なメリットもある。上記のようなリスクを克服すれば、対話型AIは悩み相談において有用なツールとなりうる。そこでの主なメリットを挙げてみよう。
(1)相談への敷居を下げる
人に悩みを相談するという行為は、自分の弱点を相手にさらす行為である。そこでは、恥ずかしい気持ちや、相手にどう思われるだろうかという不安を乗り越えることが必要である。それが嫌で、人に悩みを話せない人はたくさんいる。自殺既遂者の多くが、誰にも相談できないまま亡くなっている。相談への敷居を下げることは自殺予防においてとても重大な課題なのである。
AIは機械なので、人間への相談に付きまとう恥ずかしさや不安をかなり低下させる。これまでになされてきたリサーチでも、多くの人が、人間よりも機械に相談することを好むということが分かっている。AIを悩み相談に活用することで、相談への敷居を下げることが期待できる。
(2)膨大な知識・情報を活用できる
悩んでいる人にとって、的確な情報が助けになることは非常に多い。たとえばうつ状態に陥っている人が、うつが悪化する過程で失業に追いやられたり、経済的問題を抱えたり、結果的に転居を余儀なくされたりしてしまうことがある。深刻なケースであるほど、心の悩みが心理カウンセリングや精神医学的な治療だけでは解決しないことが多い。
悩みの解決には、福祉サービス、労働市場、金融、法律、不動産市場など、さまざまな分野の知識が有用であることが多い。とはいえ、どんなに優れたカウンセラーでも、それほど幅広い知識を持ちあわせているわけではない。AIは、幅広い知識のプールから必要な情報を瞬時に提供することができる。こうしたAIの能力は、心の悩みの相談において大きな可能性を持つものである。
(3)大量の相談に即時的に応じられる
悩みの相談への潜在的ニーズは大きい。多くの人が、できるなら誰かに相談したいと思っている。しかし現在の日本の社会において、相談したい気持ちはあっても、実際には誰にも相談できない人はたくさんいる。
無料の電話相談やチャット相談が提供されてはいるものの、深夜に死にたい気持ちになって、電話相談やチャット相談にアクセスしてもなかなか繋がらないのが現状である。24時間、相談したい時に相談できるような社会は、今なお実現されていない。そうした社会を実現するには、そこにもっと資金を投下することが必要なのである。
これまで、悩み相談の経費は、人間が相談対応をする前提で考えられてきた。そしてその経費のかなりの部分は人件費であった。対話型AIの登場は、この前提を変えてしまうかもしれない。
AIは、同時に大量の相手とやり取りができる。疲れることなく24時間365日対応できる。AIをうまく活用することで、大量のニーズに即座に応えることができるようになるかもしれない。














