オーディオブックの成長と「深さ」という新たな価値

設楽:出版社としての側面からお伝えすると、Podcastと近い存在にオーディオブックがあります。これは具体的な額は言えませんが、会社として見過ごせない売上になりつつあります。今では各出版社もかなり意欲的です。

野村:そうなのですね。

設楽:オーディオブックが面白いのは、基本的には課金モデルであるという点です。それでこれだけの売上があるというのは、一つ面白みがあります。この市場が広がることが、Podcastと相乗効果を生むかもしれません。

それから、もう一つ。私が配信している暗号資産の専門番組「EXODUS(エクソダス)」は、毎週1時間、難しい話をずっと喋っているのですが、ユーザーの離脱率を調べると、1時間のうち55分間を8割から9割の人がずっと聴き続けているのです。

野村:それはすごいですね。

設楽:ショート動画が流行し、「タイパ」が重視される時代に、実は「深さ」で攻められるメディアの一つであるという点は、私が感じるPodcastの魅力です。専門的で複雑な内容であっても、人の時間を1時間奪うことができている。この「深さ」という価値が評価されれば、どこかでキャズム(新しい商品や技術が浸透するために越えなければならない溝)を越えてくれるのではないかと期待しています。私の番組にも「専門領域でそれだけ熱心に聴いてくれるなら」とスポンサーが付いてくださるので、そういった意味でも期待しています。

Podcastを爆発させるために必要な「ポッドキャスター」

設楽:現状を打破していくには、ある程度我慢してコンテンツを作り続けるプレイヤーが必要です。あるいは、YouTubeにおけるHIKAKINさんのように、「ポッドキャスターになりたい」と思わせるスターが出てこないと難しいのかもしれません。

野村:野球界で例えると大谷翔平選手のように、英語圏ですごく成功する日本人が出てくるといったことかもしれませんね。

設楽:いずれにせよ、質の高いコンテンツの蓄積と、その利便性の認知拡大が進むことで、日本のPodcast市場も新たなフェーズに入っていくのかもしれませんね。

<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。