「私たちは戦勝国?それとも敗戦国?」語られなかった台湾の戦争
1987年に戒厳令が解除され、1996年には初の総統直接選挙が行われるなど、台湾は民主化の道を歩み始めた。
戦後台湾史に詳しい国立台北教育大学の何義麟教授は、今ようやく「日本統治時代を知る世代の戦争体験を記録しよう」という動きが盛んになっていると語る。
「戦争体験者の多くは90歳近くになっていて、話を聞き取る最後のチャンスです。長い間台湾では歴史的な記憶が適切に記録されていなかったと感じています」
なぜ台湾では戦後、戦争体験が語られることがなかったのか。
「戦後、国民党支配による政治的な混乱が大きかったこと、また戒厳令下で台湾の人々は日本統治時代をどう過ごしたのかについて話すことができなかった。そのため、当時を知る親世代が歴史について口を閉ざし、子供たちに戦争体験を伝えようとしなかったのです」
「国民党政府は忘れてしまったのです。日本統治時代、台湾人は日本人であり、中国と戦っていた日本兵だったことを」
中国大陸で日本との戦争に勝利した国民党にとって「台湾人は日本人だった」という事実は、台湾を統治するうえで不都合なものだった。国民党にとって、日本はあくまでも敵でなくてはならない。そのため、国民党統治下では「日本人として暮らし、戦った台湾人」という事実は語られることがなかった。
日本として戦争に負けた台湾だが、その後、国民党率いる中華民国となったことで「戦勝国」になった。この「ねじれ」も歴史を語ることをさらに複雑にした。
「台湾は戦勝国だったのか、敗戦国だったのかということがまず問われますが、誰もはっきりとは言えません」
民主化によって「国民党の歴史観」から解き放たれた今、台湾では日本統治時代、そして国民党支配の時代という今まで語られなかった、抑圧され続けた「台湾の悲しみの歴史」を捉えなおそうという動きが広がっている。














