政府は今、福島第一原発の事故後に制限をかけた原発の運転期間を延ばすという大きな政策転換をしようとしています。この突然にも見える転換に危機感を抱く、霞が関の現役官僚がその裏側を語りました。

■「盗人猛々しい、どさくさに紛れて」“原発運転期間の延長”に異議

佐藤弥右衛門さん(71)。福島県・喜多方市で200年以上続く酒蔵「大和川酒造店」の9代目だ。現在、約20種類の酒を造っているが、福島第一原発の事故の風評被害で注文が全く来なかった時期もあった。

「二度と酒が造れないかもしれない」そんな恐怖を抱いたという。

佐藤弥右衛門さん
「その地域の全部が終わるわけ。居れなくなるんだから。今まで長い歴史を繋いできたその地域が、もうそこに居れませんと」

「原発は必要ない」そう考えるようになった佐藤さん。この日、我々を案内してくれたのは…

佐藤さん
「ここが雄国太陽光発電所。会津電力で一番最初につくった発電所です。これが1000kWです、メガ発電」

約3700枚のソーラーパネルが設置された太陽光発電所。佐藤さんは、9年前の2013年に再生可能エネルギーに取り組む電力会社「会津電力」を立ち上げた。

佐藤さん
「自分たちで資源を活用して、自分たちでこういう発電所を小規模分散型でやればいいわけです。全部ここで作る。会津の豊かさってつくづくね、自分でこのエネルギーの会社を作ってやってみて思うわけです」

現在、県内の約140か所で発電(グループ会社含め)を行い、4000世帯分の電力を供給している。
国は原発事故の後、「可能な限り原発依存度を低減する」として再エネを主力化する方針を示してきた。しかし、加速度的に進んでいるとは言い難い。

佐藤さん
「早く取り組んで、早く(原発を)廃炉にして、新しいエネルギーを作っていく方向へいかなかったら、次の世代に申し訳が立たないと思わないのかな。安全安心なエネルギーがこうやってできるのに、何でそこに政府はお金を出したり、もっと技術を支援したり、なんでしないのかね」

原発事故による苦しみを二度と繰り返さないように、再エネの事業まで立ち上げた佐藤さん。今どうしても許せないことがある。国が、老朽化した原発の運転期間を延長できるよう政策を転換しようとしていることだ。

佐藤さん
「盗人猛々しい。土壇場でエネルギー価格が高騰したから原発を回したいっていう理由。どさくさに紛れて、空き巣狙いみたいなもんじゃないの。電源の必要なところに原発を作ったらどうですか、すぐそばに。安全安心で、東京都のど真ん中に。国会議事堂の前に原発をどうぞ作りなさいって私言いますよ」

政府が原発政策の転換を表明したのは、2022年8月のことだった。

岸田総理(GX実行会議 8月)
「安全性の確保を大前提とした運転期間の延長など、既設原発の最大限の活用。与党や専門家の意見も踏まえ、検討を加速してください」

福島第一原発の事故後、原発の運転期間は「原則40年、最大60年」に制限されてきた。10年たった今、政府はそれを見直そうというのだ。審査などで停止した期間分を延長する方向で、10年停止していれば最長70年の運転が可能になる。