政治学者が語る「保守」のあり方
高市氏は自分を「穏健保守」だと自称しています。ここで「保守とは何か」という議論に立ち戻ってみましょう。
自民党総裁選のさなかの10月2日、朝日新聞に東京科学大学の中島岳志教授のインタビュー記事が載っていました。中島教授は「保守」をこう定義しています。
「歴史の風雪に耐えて残された良識、社会的な経験値、暗黙知。それが形となったものが伝統や慣習である。保守はこれらを重んじるが、全く変えないということはない。漸進的な改革、永遠の微調整をしていく。これが保守だ」
その上で、「自民党は保守政党か?」と問われた中島教授は、以下のように答えています。
「違う意見にも耳を傾け、落としどころを探るのが保守政治家だった。(元首相の)大平正芳さんが『政治は60点』と語ったが、どんな人でも間違うから40%の余白を残す。これが保守の態度。むしろこの十数年間の自公政権は、保守の重要な部分を失ったのではないだろうか」
高市新総裁が目指す「穏健保守」が、この中島教授が定義するような、対立する意見にも耳を傾け、「落としどころ」を探る政治であるのかどうかは、今後の外交姿勢に強く関わってくるでしょう。
中島教授は、排外主義を抑制する一番の方法として、賃上げや再配分で日本人の生活の土台を引き上げることだと主張しています。リーダーは、排外主義をあおりかねない言動を厳に慎み、国民の生活の安定を通じて「偏狭なナショナリズムを抑制する」ことが、本来の保守のあり方ではないでしょうか。国内だけでなく、近隣国との関係においても、この姿勢が問われます。
来週にも誕生するとみられる高市総理の近隣外交に注目が集まります。10月末には韓国でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が開かれ、韓国の李在明大統領や中国の習近平主席らも出席します。高市新総理の外交手腕が、いきなり試される舞台となりそうです。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める