名字だけで選ぶ「かってに」賞の登場

今回は、それに輪をかけて芥川・直木両方の賞が「該当作なし」となったため、その衝撃は一層大きかったのですが、そこで出てきたのが「かってに芥川賞・直木賞」です。今回は、東京都内の五つの書店と読書好きな人たちが協力して立ち上げたものですが、これが極めて単純な発想で、芥川という名字の人、直木という名字の人に選んでもらった作品を表彰しようというもの。

実名登録が原則のSNS、フェイスブックを使って、芥川さんと直木さんに片っ端から連絡を取って、芥川さん7人、直木さん1人が「かってに芥川賞」7冊、「かってに直木賞」2冊を選びました。「作家や出版社も書店員も絡まない、ただ名字が芥川、直木という人で選んでしまおう」というすごい発想で、本当の芥川賞では「新進作家による純文学の中・短編作品」、本当の直木賞は「新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の単行本」という条件がありますが、「かってに」の方はこうした条件は全くなく、自由です。

私が都内の書店で見たのは「全国の芥川さん、直木さんにとっておきの1冊を選んでいただきました!」という掲示があって受賞した本が並び、その一冊、幻冬舎『童話物語』には「神奈川県在住 60代 楽器店経営者の芥川さんが選んだ かってに芥川賞」という帯が本に巻かれていました。全部の書店というわけではないのですが、少しずつ広がっています。

どうですか。賞がないのなら勝手に作ってしまえ! というのは。実は、「かってに」的なものはこれまでにもいろいろあり、書店員個人が勝手に選んでいる賞というのは結構あるのです。その先駆けは、東京の三省堂書店神保町本店などに勤務していた新井見枝香さんが作った「新井賞」。2014年にスタートし、これは芥川賞・直木賞と同じ日に発表して話題を呼びました。高知県にあるTSUTAYA中万々店の山中由貴さんが選ぶ「山中賞」という賞もあり、今年受賞したのは直木賞作家、東山彰良さんの『三毒狩り』でした。