世論は77%が法規制を支持

ネパールで政府のSNS禁止に抗議するデモで19人が死亡する事態が起きるなど、世界でSNSが生活に深く浸透している今、なぜオーストラリアはこのような厳しい規制を導入したのだろうか?

その背景には、前述したエマ・メーソンさんの娘ティリーさんが受けたようなオンラインでのいじめやハラスメント、性的な画像や動画を使って脅迫するセクストーション(注1)などの被害事例の急増が挙げられる。

「オンライン安全監視機関」には、2024年に約7000件の苦情が寄せられた。未成年者の被害者が関わるオーストラリア連邦警察への通報数も年々増加していて、2022–23年の963件から2023–24年には1,230件と約30%増加した。

(注1)「性的な」という意味の「セックス(Sex)」と「脅迫」を指す「エクストーション」(Extortion)を合わせた造語で、「性的脅迫」を指す

具体例の一つとしては、メルボルン在住のウェイン・ホルズワースさんの当時17歳の息子 マックさんがセクストーションの被害を受け2023年に自殺したケースがある。

マックさんは “18歳の女性” と偽る男から金銭を要求されたという。現在父親のウェインさんは「当時16歳未満のSNS禁止法があれば息子の命が救えたかもしれない」との思いを政府や関係機関に訴える活動を行っている。

こうした状況に伴い、オーストラリア国民から未成年者のSNSアクセス制限を支持する声が高まった。オンライン安全改正法が可決した2024年11月直前に行われた世論調査(YouGov調べ)では、16歳未満のSNS禁止に77%、法律違反企業への厳罰化に87%が「賛成」と答えている。

「“自分の世界”が一気に小さく」子どもたちからは嘆きや不安の声も

一方、今回の法規制で「失うものも大きい」と感じる子どもたちもいる。シドニーに住む15歳の女子高校生は「InstagramやTikTokは友達とのつながりの場で、メッセージのやりとりや趣味を共有する場。禁止されると“自分の世界”が一気に小さくなる気がする」と語った。

また、東部ブリスベンの13歳の女子中学生は「クラブ活動や学校のイベント、最新のトレンドは皆SNSで回ってくる。禁止されたら“取り残された”ように感じる」と地元メディアに答えている。

オーストラリア人権委員会は、今やSNSは「若者が自分の考えや意見を共有し、社会的・文化的活動に関わるための重要なプラットフォームになっている」と分析。SNSの利用禁止が、特に社会的に脆弱な立場だったり、遠隔地のコミュニティに住む若者を「仲間から孤立させ、必要な情報や支援へのアクセスから制限する可能性がある」としている。