オーストラリアは、16歳未満の子どものSNS利用を禁止する法律を世界に先駆け国家レベルで定めた。昨年成立したこの法律は、今年12月の施行に向けて現在様々な準備が進められているが、具体的な適用方法や技術的対応、そして世論や企業の反応は依然として流動的だ。そもそもなぜオーストラリアは、子どものSNS利用を禁止するのか?その背景と問題点、今後の見通しなどについてTBSテレビの飯島浩樹・シドニー通信員が考察する。

「娘の死はSNSで助長された…」

今年9月24日(現地時間)、ニューヨークの国連本部でスピーチしたオーストラリア人女性エマ・メーソンさん(冒頭の写真、右手前の女性)。2022年、当時15歳だった娘のティリーさんを学校の同級生らによるSNSを通したいじめにより失った。

国連本部で各国首脳らを前にスピーチするエマ・メーソンさん(9月24日)

欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長や各国の首脳らが見守る中、在りし日の娘の大きな写真の前に立ち、「勇敢な小さな少女が受けた過酷なネットいじめは、誰も経験してほしくない」と目に涙を浮かべながら語った。

ティリーさんへのいじめは、彼女がまだ小学生だった2020年、生成AIによるディープフェイクの偽ヌード写真をオンライン上で拡散されるまでにエスカレートした。母親のエマさんによれば、当初わずか5人に届いたフェイク画像は、半日ほどで3000人以上に拡散されたという。

シドニー西部に位置する人口7000人ほどの小さな町バサーストで、ティリーさんへのネガティブな噂は瞬く間に広まった。その後、好きだったダンスをやめて自宅に引きこもり、学校にも通わなくなったティリーさんは、11回にわたり手首を切るなど自殺を図った。

そして2022年2月、ティリーさんは自宅の裏庭で命を絶った。

ティリーさんのスマートフォンを調べた警察によれば、彼女のアカウントには自殺や死に関連するメッセージやコンテンツが溢れていたという。母親のエマさんは「娘は小さな傷が積み重なった末に亡くなったのです。これはSNSによって悪化した“いじめによる死”でした」と訴えた。

国連の会場でメーソンさんと同席したオーストラリアのアルバニージ首相は「完全ではないかもしれないが、子どもたちをオンライン上の害から守るために必要な措置」と述べ、今年12月10日から施行される16歳未満のSNS利用禁止法についてその意図を説明した。

“世界初”画期的法規制の具体的な中身

国家レベルの法規制としては世界初の試みであるオーストラリアの「オンライン安全改正法(SNS最低年齢)2024」 =Online Safety Amendment (Social Media Minimum Age) Act 2024 は、16歳未満のユーザーが対象のSNSのアカウントを作成することを禁止し、プラットフォーム運営者に対して未成年者のアカウント作成を防ぐための合理的な措置を講じることを義務付けている。

違反した場合、最大4,950万豪ドル(約48億円)の罰金が科される可能性があり、プラットフォームはAIや行動データを活用してユーザーの年齢を推定し、16歳未満のユーザーのアカウント作成を防ぐ必要がある。プラットフォーム側が対象者のアカウントを削除する措置を講じるまでに、法律が施行される12月10日から12ヶ月の猶予期間が設けられている。保護者や子ども自身は罰則の対象にはならない。

オーストラリア政府の発表によると、Facebook、Instagram、TikTok、Snapchat、X(旧Twitter)など主要なソーシャルメディアプラットフォームの“アカウント保有”が原則として禁止される。当初対象外とされていたYouTubeも含まれることになり、政府の担当機関である 「オンライン安全監視機関」が、この法律の運用監督を行う。