日本への影響は…

オーストラリアの今回の取り組みは、日本にどんな影響を与えるのだろうか。

アジア・オセアニア地域各国に拠点を持つOne Asia法律事務所でオーストラリアを担当する坂本真一郎弁護士は、日本でも子どものネット依存、ネットいじめ、セクストーションなどの問題は深刻であり、政府・自治体での議論は活発化していると指摘する。

ただ、「オーストラリアが16歳未満の子どものSNS利用を禁止したからといって、今すぐに日本がそれに追従するとは考えにくいが、もし今後これが世界的潮流になるとしたら、立法を含む規制を本格的に検討する動きが出る可能性はある」と話す。

One Asia法律事務所オーストラリア担当 坂本真一郎弁護士

本稿の冒頭でも触れたが、今年9月の国連総会に出席した欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長はオーストラリアの法規制を「常識的な判断」として評価、EUでも同様の規制を検討する意向を示した。

EUなど世界各国でオーストラリアを参考にした動きが活発化すれば、日本にも進出している Meta, TikTok, Instagram 等のSNS大手が、国ごとの規制に対応して技術・運用を変える必要が生じる。オーストラリアでの仕様がグローバルな基準設定に影響を及ぼす可能性がある。オーストラリア側も国際協調を意識し、プラットフォーム企業との交渉の中でグローバルな標準設定を目指すだろう。

2年後には廃止も?米国トランプ政権からの圧力は?

前出の坂本弁護士は、オーストラリアの新法は国家レベルでは世界初の試みであることから、運用はいわば実験的なものになると見る。

また施行から2年後に制度の見直しが予定されており、もし施行後に十分な効果が確認できなければ、法律の撤廃も考えられる。

一方、Meta、X、Google など米国の大手I T企業がオーストラリアの規制に反発していて、今後トランプ政権に働きかけ、オーストラリアに対して報復的関税や市場アクセス制限を示唆するなど経済的圧力をかけてくる可能性もある。

ただ、米国が主権国家であるオーストラリアの法律を直接覆すことはできず、影響は外交や経済分野にとどまる。この法の行方を左右するのは、基本的には国内要因であり、国内世論や政治動向、プラットフォームとの妥協策などだろう。加えて、人権の観点から連邦裁判所で法の合憲性も問われるかもしれない。

16歳未満の子どものSNS利用禁止法は、まさに世界的に前例の少ない大胆な実験であるとも言える。子どもをネットの危険から守るという正義と、表現の自由や利用環境を守るという価値観。そのせめぎ合いをどう調和させていくのか?オーストラリアの試みに世界が注目している。

〈執筆者略歴〉
飯島 浩樹(いいじま・ひろき)
TBSテレビ・シドニー通信員(契約コーディネーター)
2000年シドニー五輪支局の代表を務めた後、シドニー通信員として特派員業務を行う。
これまで、オーストラリアやニュージーランド、南太平洋島嶼国を精力的に取材し、歴代首相や著名人への単独インタビューなどを敢行している。
著書に『アボリジナル・メッセージ』(扶桑社)、『躍進する未来国家豪州 停滞する勤勉国家日本』(いろは出版)などがある。

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1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。