山口県の海底に183人が取り残されたまま沈んだ炭鉱があります。8月、83年ぶりに遺骨が引きあげられました。成し遂げたのは小さな市民団体です。遺骨を故郷に還したい――遺族らの願いは叶うのでしょうか。

事故から83年 遺骨発見の瞬間

山口県、宇部市。

記者
「ここが83年前に事故が起きた、長生炭鉱の現場です。ここに2つのピーヤと呼ばれる構造物が残されていますね」

これは当時を写した数少ない写真だ。海上に見えているのは掘り出した石炭を積み出す桟橋で、長生炭鉱そのものは海底にある。ピーヤは炭鉱内の換気や排水をするための物だった。

83年前に起きた落盤事故で、183人の労働者が取り残されたまま、炭鉱は水没した。

8月、悲劇の痕跡が初めて撮影された。海底に残された頭蓋骨。大腿骨のような骨。人間の下半身だろうか、靴がそのまま残っているようにもみえる。

撮影したのは遺骨の潜水調査にあたっていた韓国人ダイバーだ。

キム・スウンさん
「坑道の塞がった状態を撮影してほしいと言われていたので、撮っていました」

長生炭鉱の坑道は複雑に入り組んでいた。落盤が起きたのは炭鉱の入り口=坑口から約1キロの地点。

遺骨はピーヤに繋がる道から、本坑道に入ってすぐ。前後が塞がった30メートルほどの区間で見つかった。途中には、当時の面影を残すレンガ造りの門もあった。

キム・ギョンスさん
「骨があると指差しても、目の前にあっても気付かない方は多いです。堆積物と同じ色なので。その周りを見ますと、もっと多くの方がいらっしゃるのがわかりました」

よく見ると、靴のようなものが点在していることにも気がついたという。

キム・ギョンスさん
「少なくとも、4人以上の遺骨がここにあると私たちは考えています」

遺骨の鑑定に詳しい石川昂教授。映像から、こう指摘する。

東京歯科大学(法歯学) 石川 昂教授
「おそらくこの下半身部分は、死蝋化(しろうか)と言って矛盾はないと思います」

死蝋とは腐敗が極度に進まなくなった遺体の状態だ。生前の姿形や特徴がそのまま残ることもあり、「永久死体」とも呼ばれる。

東京歯科大学(法歯学) 石川教授
「引き上げてみないと何とも言えませんが、おそらく靴の中で一部死蝋化した足がそのまま入って、そこに骨がくっついているという状態なんじゃないか、というような想定はできますね」

長生炭鉱の遺骨は、これまで政府から所在不明とされ、公的な調査はされて来なかった。