生成AIをめぐる課題~コストや法整備、著作権など~
AIは可能性を大きく広げる道具ではあるものの、使いこなせなければ成果は乏しい。MBCのAIチームも、放送レベルの映像を制作できるようになるまでに1年を要したという。
また猛烈な速度で進化する技術にキャッチアップするのにはコストもかかる。技術のモニタリングをし、新たなモデルは登場するたびに試す必要があり、MBCのチームは各サービスの利用料だけで月に数十万円を費やしているという。
ほかにも課題も多い。MBCの「モナリザ盗難事件」放送後には映像について「抵抗感がある」「ぎこちない」といった視聴者の声もSNS上に相次いだ。特に生成AIによる感情表現は、人間の役者の繊細さには遠く及ばず、視聴者に違和感を与えたようだ。
生成AIの活用拡大は、役者やカメラマン、編集スタッフといった人たちの仕事が奪われるのではないかという懸念も生んでいる。
しかし、MBCのキム・マンジン部長は、「特定の分野での活用は増えるものの、AI映像が主流になることはない」と分析する。実写ドラマやドキュメンタリーなど、生身の人間にしかできない表現に対する視聴者の欲求は根強く、人の役割がなくなることはないとの見方だ。

制作現場においても、人の役割は不可欠だ。AIアーティストのキム・ヒョンア氏は、AIを駆使して人を引き付ける映像を作るには、ドラマやアニメ制作の経験や「絵心」が重要だと強調する。AIはあくまで創作を助ける「道具」にすぎないというわけだ。

AIが産業に与える影響について研究する光云大学のチェ・ジェウン教授は「AIの活用が広がれば取って代わられる仕事もある」とする一方で、「AIに関する仕事が増えるので、全体の働き口は変わらない」と見ている。
AI映像を巡っては著作権の問題もある。AIが学習過程で無断利用した画像や映像が著作権侵害に当たるのではないかとの指摘は根強い。しかし韓国ではAI産業の規制より育成を優先すべきとの声が強い。
セジョン法律事務所のイム・サンヒョク弁護士は「韓国の場合は技術開発を通じた富の増大がより重大だという社会的認識がより高い」と語る。
