五輪&世界陸上で世界新を跳ぶデュプランティスと、競り合いに強かったブブカ

2人とも世界陸上には強く、ブブカは1983年の第1回大会から97年のアテネ大会まで、6連勝を達成した(91年東京大会までは4年に一度の開催)。デュプランティスはまだ3連勝だが、オリンピック™ではブブカが88年北京五輪一度しか勝っていないのに対し、デュプランティスは21年東京五輪、24年パリ五輪とすでに2回勝っている。

違いは“勝ち方”で、ブブカは接戦で勝っていた印象がある。2位との差は5cmか10cm。世界陸上6連勝の全てで、ブブカが優勝を決めた高さは2位の選手もトライしているのだ。その高さをブブカだけが成功して優勝を決めている。

それに対してデュプランティスは、東京五輪とブダペストはブブカパターンの勝ち方だが、オレゴン世界陸上、パリ五輪、東京世界陸上と、最後の高さはデュプランティスだけが挑んで成功している。その3試合は世界記録で、ブブカも優勝を決めた後に世界記録にバーを上げたが、五輪&世界陸上ではクリアできなかった。

91年東京世界陸上が、ブブカらしさが発揮された試合だった。ブブカが5m90の1回目を失敗したのに対し、I.バギュラ(ハンガリー)がその高さを1回目にクリアした。ブブカが2回目で跳んでも、同記録で終わった場合は勝つことができない。ブブカは5m90の2回目以降をパスし、次の5m95に勝負をかけた。

バーを上げる種目の走高跳と棒高跳ではときどき見られる駆け引きだが、追い込まれてパスをした選手が、次の高さを先にクリアして逆転するケースはあまり見られない。しかし91年東京世界陸上のブブカは5m95を2回目でクリア。前の高さで1回失敗しているので、最後のチャンスでの成功だった。バギュラがその高さを3回失敗し、ブブカが逆転で3連勝を達成した。

これも今回のデュプランティスと比較できるものではないが、国立競技場の盛り上がりはすごかった記憶がある。ブブカは優勝争いと世界記録への挑戦で大会を盛り上げ、デュプランティスは世界記録に成功することで大会を盛り上げる。

34年の星霜を経て開催された2度の東京世界陸上で、棒高跳レジェンド2人の特徴が余すことなく発揮された。国立競技場は棒高跳の聖地となった。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

*写真は左から25年東京世界陸上のデュプランティス選手、91年東京世界陸上のブブカ選手