ロシアの老獪な外交手腕

実は、中国とインドの接近にはロシアも一役買っています。

5年ぶりとなる習近平主席とモディ首相の個別会談が、昨年10月にロシア国内で開催されたBRICSの首脳会議を利用して実現しました。中国とインドは国境問題などで対立してきたものの、それぞれがロシアと伝統的に友好関係を保っています。両国とも、主催国ロシアのメンツを傷つけるわけにはいきません。中国とインドの会談を取り持ったのがロシアだと考えれば、そこからはプーチン大統領のしたたかさが浮かび上がってきます。

インドにとって、中国との関係改善や関係強化は、今後アメリカと交渉していく上で強力なカードになります。そもそもアメリカや日本は、急速に力をつける中国をけん制するためにインドに近づいてきた経緯があります。その努力を重ねてきたのに、中国とインドの関係が良くなれば、これまでの戦略や努力が損なわれることになります。

さらに、ロシアも制裁によってだぶついた原油を売ってきたことで、中国やインドに「貸し」を作ることになり、自国に対する国際的非難をかわすことにも繋がります。ロシアにとってのメリットも非常に大きいのです。

複雑に絡み合う国際政治の駆け引き

トランプ大統領が各国に課した追加関税は、国際社会のパワーバランスにおいて、そのデメリットは小さくありません。

中国・天津で開かれている上海協力機構の首脳会議を、こんな図式で見ることはできないでしょうか。首脳会談を前に、同床異夢ながらにこやかに握手する中国の習近平主席とインドのモディ首相。そして、その握手の様子を会場の陰から見つめてほくそ笑むロシアのプーチン大統領。そんな様子が目に浮かびます。

日本も、モディ首相を招き、インドとの関係強化を図ったからといって、安心ばかりしていられないでしょう。国際政治のプレーヤーは、みな、老獪でしたたかです。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める