大森が1区に行くことの意味

松田と加世田以外では、大森の1区が有力視されている。前回も1区で区間賞と12秒差の区間5位。昨夏には「5000mの自己最低記録」(大森)を出して競技をやめることまで考えたが、体調不良の原因が判明し、対処して秋には調子を上げてきた。クイーンズ駅伝翌月には、ハーフマラソンの自己記録(1時間10分18秒)でも走った。

「去年の駅伝はわりと調子は上がっていましたが、夏の練習が積めていなかったので、自分でもビックリした走りでした」

今年は6月に5000mで15分29秒46をマーク。自己2番目の好記録だった。9月末の全日本実業団陸上では初めて5000mと10000mの2種目に挑戦し、10月中旬にはハーフマラソンにも出場。その3レースの記録は良くなかったが、3本をセットにして、高負荷で追い込む練習と位置づけた。「去年より蓄積したものが多いので、駅伝でも少しは安心してスタートできます」と今年は手応えがある。

「でも1区のレースは、そのときどきで流れが違います。私が1区に行くのなら目的は区間賞というより、松田と加世田が長い区間を走ったり、チーム全体が適材適所の区間配置ができるようになることです。区間10位でも周りとの差やライバルチームとの位置関係が、走りやすいところで2区以降にタスキを渡すことが仕事ですね」

ダイハツの2区候補は前回区間6位の武田千捺(22)と、ルーキーの西出優月(22)の2人。武田は2年前も区間2位と、2区での実績は高い。西出は専門の3000m障害で日本選手権2位に入っただけでなく、1500mでも4分18秒49とダイハツ記録を更新したスピードがある。

前回6区区間9位の上田雪菜(24)、出産を経て復調してきた前田彩里(31、15年世界陸上マラソン代表)、マラソンで2時間26分23秒を持つ竹本香奈子(26)らが6区候補だ。

2年前に出産した前田は、「体のバランスが崩れていた」(山中監督)ため、故障が出やすくなっている。練習も故郷の熊本で行っているが、今季は徐々に本隊チームと「距離やスピードはきっちり決めませんが、似た内容のメニュー」もこなせるようになった。加世田と松田に何かが起きたときは、前田が長い区間を走ることになる。

1区候補の大森が区間トップと大差なくつなげば、2区でトップ争いに加わることも可能だろう。そして3区候補の加世田が、昨年抜かれた廣中や新谷仁美(34・積水化学)といった、トラックの強豪選手相手にどこまで対抗できるか。

山中監督は「3位以内が目標ですが、目指せる状況になれば悲願の優勝も目指します。しかしレースになったら、選手たちは冷静に走ってくれたらそれでいい」と、上を目指す意欲と、足元を見て落ち着いて走ることのバランスに言及した。

優勝候補チームに取りこぼしが生じたとき、ダイハツが冷静に走っていればチャンスが巡ってくる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

※写真は松田選手(左)と加世田選手(右)