なぜ国の対応は遅れた?

実は旧労働省は1976年(昭和51年)にはアスベストによる健康被害が労働者本人だけでなく、その家族や工場周辺住民にも及ぶ危険性を認識していたことが分かりました。旧労働省が同年に出した「石綿紛じんによる健康障害予防対策の推進について」という通達の資料の中で、イギリスで家族や周辺住民にも被害が出ているという記述があることから判明。

これについて2005年(平成17年)、当時の厚生労働副大臣・西博義氏は、この事実を認め「労働災害という狭い見方で家族や周辺住民への対応ができなかったのは決定的な失敗だった」と述べています。

過去に日本でも1992年(平成4年)にアスベストの原則使用禁止を定めた法案が議員立法で国会に提出されていましたが、法案は1度も審議されず廃案となってしまいました。

当時、廃案の影に業界団体の『日本石綿協会』の反対があったといいます。自民党や各省庁などに送られたという協会の意見書には「石綿による健康障害を防止しながら使用を続けることが可能である」などと書かれていました。

現在の状況

2021年(令和3年)に最高裁が国と建材メーカーの賠償責任を認めましたが、建材メーカー側が賠償に応じるケースは少ない現状があります。

そんな中、大阪高裁で2025年(令和7年)8月8日に建材メーカー12社が元建設作業員や遺族ら115人に対し、約12億5000万円を支払うことなどで、新たに和解が成立しました。
その前日8月7日には東京高裁でも建材メーカー7社が原告400人に約52億円を支払う和解が成立しています。