■問われる日本企業の経営 イノベーションで新しい価値を

日本はこの10年間、アベノミクスの異次元緩和ということで、物価を上げれば成長もし、賃金も上がっていくというような議論で話を進めてきた。ところがここに来て、物価は上がったが給料も上がらないし、成長もしない。一体何なのだという話になっている。

――マクロ的なアプローチは当然マクロ政策には必要だが、給料を上げる会社がたくさん出てくればいいということなので、個別の取り組みが実は本当は大事だったということなのか。

入山章栄氏:

結局、経済というのは我々人間と企業でできているので、我々人間や企業組織の振る舞い方がものすごく影響を与えるわけです。私はここ3、40年の日本企業の経営のあり方というのはイノベーション、変革を起こさないような仕組みがかなりあったので、やはりここが一番本丸の課題だと思います。

――イノベーションが起きれば企業の利益が上がり、給料も上がる。給料が上がった会社があれば真似する会社も出てくるだろうし、人々もそこへ行こうとするということか。

入山章栄氏:

実際、今日本でも少しだけですが、ITデジタル業界はそうなってきています。あの業界もかなり雇用が流動化している上に、イノベーションが起きているので、人が動くのです。結果的にITデジタル業界の給料は上がっています。これがもっといろいろな形で日本にいい形で波及してくることが望まれると思います。

――イノベーションと言われても「革命的な技術革新は簡単には起きない」と思ってしまいがちだが…

入山章栄氏:

イノベーションの定義は、新しい価値を生むということです。新しい価値というのは例えば、ちょっと変わった製品、差別化された製品を提供するということも十分にイノベーションなのです。我々はイノベーションというと、どうしてもアップルやGoogleみたいなことをやらなければいけないと思うのですが、必ずしもそうではない。今、みんな同質のものばかり作るから価格競争に陥ってデフレになってしまうので、違ったものを作れば、そこに価値を感じるから価格が上げられるのです。そうすると給料も上げられる。そういう好循環を作ることが大事です。

イノベーションというのは、研究開発やマーケティングの話ではないのです。会社全体を少しずつ変革していくということなので、人事からガバナンスからすべてを変えていくことが大事だということです。

――成長戦略がないと言われてきたが、結局、個々の企業や組織がどう成長していくかということに向き合えば、ミクロから動かしていくこともできるかもしれない。

入山章栄氏:

そういう意味では私が今若干期待しているのが、今の円安傾向です。日本は海外から進出してくる企業は結構少ないのですが、例えば今台湾のTSMCという世界屈指の半導体企業が円安になって日本に来て、熊本でものすごく給料を上げています。外資系の会社がもっと入ってきて競争を活性化させて、結果的に我々の給料も上がってイノベーションが起きるということになるのも期待したいと思っています。

(BS-TBS『Bizスクエア』 11月19日放送より)