■日本の文化予算は韓国の1/3

精神科医・アートコレクター 高橋龍太郎 氏

日本の政府には、アートを振興する意欲はあるのだろうか。

「文化が未来の先兵だとすると、そこにとにかく税金のような網をかけて、それを押しとどめると、日本の文化はもちろん進めないし、日本の未来も前に進めなくなるような気がしています」

精神科医で日本を代表する現代美術のコレクター、高橋龍太郎氏は日本の文化政策への姿勢に警鐘を鳴らす。

「韓国という立派なお手本があるわけです。韓国は音楽もファッションも映画も全部、文化を先兵として送り込んでいる。そのあとに産業がついていく」

文化芸術の海外発信や文化財保護などに使われる「文化予算」。日本の当初予算は1166億円(※2020年)で、この10年間の増加率は14%とわずかに増えているが、お隣の韓国は日本円にして約3倍の3438億円(※2020年)。同じ期間で129%の増加となっている。

■課題山積の日本のアート産業

文化支出額の推移
近年、韓国は低迷した経済を復興させるため、映画や音楽、芸術などのコンテンツ産業を21世紀における国家の基幹産業の一つとして育成し、国家戦略として発展させていくための法制度や体制づくりを進めている。

一方の日本も、岸田首相が1月に行われた衆院本会議で、「文化アート振興を推進する」と表明。作家の国際展開の支援や、取引市場の活性化に注力するなど、ようやく国としてアート産業に力を入れ始める姿勢を見せ始めている。
ところが、「文化」が経済の発展につながるという認識が弱い日本においては、文化にあてる予算は低いままだ。

「日本もサブカル系のアートだけではなく、絵画や彫刻などのファインアーツも含めて、世界にどんどん発信するシステムにお金を投入することが大事です。クールジャパンが駄目なのは、システムを深掘りすることなく、展覧会で終わってしまっていること。システムとして日本の文化を先兵として、日本の電子や自動車などのクリエイティブな産業が後に続いて世界に出ていくこと抜きに、日本の未来は本当にないと思いますよ」

構造的な課題が山積する日本のアート産業。民間の寄付など、政府予算に限らない様々なリソースが、文化・芸術領域に注がれる構造が求められている。