■日本の富裕層がアートを買わないワケ

SBIアートオークションの様子

「アートコレクターにとって、日本は税制の面でなんのメリットもない国なんです」

川崎氏が指摘する日本の税制の問題。その一つが“相続税”だ。

日本では、法定相続分の取得財産の金額に応じて異なる税率が科され、最大で55%。相続金額の半分以上もの税金を納めないといけない仕組みとなっている。
10か月以内に相続財産を申告して、相続税を納める義務があるため、膨大な数のコレクションを築いたコレクターが亡くなった場合、残された遺族は、相続税の対応に苦しむことになる。

そこで懸念されるのが、アートの行方だ。

「例えばコレクターが仮に亡くなってしまう。ご遺族の方たちは相続税を納めないといけなくなり、キャッシュを作る必要が出てきます。そうすると家を売るか、土地を売るか、アートなのか、その3つの選択肢で言うならば、やはりアートが売りやすくなってしまう」

日本にいるコレクターが名画を購入したにもかかわらず、相続税が払えないばかりに、遺族が作品をオークションに出せば、名画は海外に渡る。“美術館級”の作品が日本から出ていくことになれば、国益の損失につながることになる。

「日本の富裕層のコレクションには、美術館レベルの名画がたくさんあります。これらを集めるだけでもそれなりの規模の美術館ができてしまうんです。しかし、コレクターが亡くなれば、コレクターの多い海外に収集されていくケースが多いのが現状です。せっかく日本にあった名画が海外へ渡ってしまうのは、芸術文化の海外放出と言っていいでしょう」

こうしたアートの流出を防ぐため、日本でも一定の手続きにより相続税の納税を猶予する制度があるのだが、重要文化財や登録有形文化財である必要があり、利用のハードルは高い。

■寄付が浸透する国の背景には “税制の優遇措置”がある

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

問題は相続税だけではない。日本では、美術品を寄付することも「税制」のハードルが高い。

公的機関等に寄贈する場合、日本では美術品の「購入時の取得価格」が、所得から控除されるのが一般的だ。控除額には上限があり、高額な美術品は控除しきれない。 一方、アメリカは「寄付する時点の市場価格の100%」が控除される。しかも、5年間の繰越控除が可能だ。

こうした税制の優遇措置などが下支えとなり、アートの流出を防いでいる。

川崎氏
「良い作品を日本の美術館に残すために、税制の法改正をすぐにでも進めるべきなんです」