■公開されなかった会談…残る課題


「ニュースは適切ではない。誠意があればうまくやっていけると思うが、そうでなければ、良い結果にはならない」

これは11月16日に習氏がカナダのトルドー首相に語った言葉だ。いつも国営メディアの計算されつくした映像しか公開されない習氏だが、今回は珍しく習氏の素の表情がツイッターで拡散され、話題を呼んだ。会話は、この前日に行われた3年ぶりとなる中国とカナダの首脳会談の内容が報道されていることに苦言を呈したものとみられる。

実は、中国国内ではカナダとの会談の事実は公表されていない。中国とカナダをめぐっては、2018年に中国の通信機器大手ファーウェイの副会長兼最高財務責任者の孟晩舟氏がカナダで拘束され、その対抗措置として中国でカナダ人2人が拘束されたことなどから関係が悪化。最近もカナダの公共放送CBCの記者が中国政府から記者ビザの発給を受けられず、北京支局が閉鎖を余儀なくされるなど、両国のぎくしゃくした関係は続いている。

さらに、弾道ミサイルを相次いで発射している北朝鮮情勢やロシアによるウクライナ侵攻の問題では、西側諸国とは一線を画したままで、溝も埋まっていない。

■失われた2年間を取り戻す“再出発”のための外遊

2020年1月、中国の武漢で初めて新型コロナの感染拡大が確認されて以降、中国と西側諸国との関係は悪化するばかりだったと言える。その間に西側諸国の中国への視線は厳しさを増し、一方で中国側は中国に向けられる批判に対して、外務省の報道官が厳しい表情で強硬に反論する「戦狼外交」を展開し、中国国民の西側に対する感情も悪化した。

今回、習氏があえて笑顔で会談に臨んだのは、今の中国がおかれている現状への危機感なのか、それとも笑顔の裏には隠された狙いがあるのか…。3期目を迎えた習氏のもと一連の会談で合意された様々な対話や交渉の再開がどこまで実現するのか、中国の本気度が今後試されることになる。

JNN北京支局・松井智史