ともに世界新を宣言してユージーンに

キピエゴンの存在も、チェベトのモチベーションアップにつながっていた。「フェイス(キピエゴン)がユージーンで世界記録に挑戦するなら、私だってやれるはず!と自分に言い聞かせていました」

キピエゴンは6月26日にパリで、スポーツメーカーが主催した非公認の1マイル(約1609m)レースで4分切りを目指していた。4分06秒42に終わったが、このタイムを1500mに換算すると3分49秒73になる。1500mの世界記録は昨年7月にキピエゴン自身が出した3分49秒04である。

キピエゴンは「パリで4分を切る準備をしていたので、1500mなら3分49秒を切れるとわかっていました」とユージーンのレース後にコメントした。パリ滞在中にキピエゴンがユージーンでの3分49秒切りを発言し、チェベトもそれを耳にしていた、ということだろう。キピエゴンは東京世界陸上についても言及した。「今回の世界記録は東京へのロードです。私は正しい方向に進んでいます」

昨年のパリ五輪で5000mと10000mの2冠となったチェベトと、前回のブダペスト世界陸上で1500mと5000mの2冠だったキピエゴン。2人は東京世界陸上の5000mで激突する可能性がある。

4月に世界新のアレクナら投てき注目選手の動向は?

今季の有力選手たちや各種目の動向が、7月のダイヤモンドリーグで明確になってきた。今季世界最高が出た種目、東京世界陸上が面白くなってきた種目をいくつか紹介したい。

ユージーン大会で男子砲丸投のJ.コバクス(36、米国)が22m48、男子ハンマー投のR.ウィンクラー(30、米国)が83m16と、ともに今季世界最高記録で優勝した。

コバクスは23m23の世界歴代2位記録を持ち、世界陸上も15年と19年の2度優勝したが、近年は世界記録(23m56)保持者のR.クルーザー(32、米国)に負け続けている。そのクルーザーが今季、1試合も出場していない。

それに対してコバクスは5~6月のダイヤモンドリーグ2試合では勝てなかったが、ユージーン大会で初めて22mを超え、パリ五輪の2~6位が揃った戦いで快勝した。5位までが22mを超えているので油断は禁物だが、コバクスが東京世界陸上の金メダル候補筆頭に躍り出た試合になった。

ハンマー投はE.カッツバーグ(23、カナダ)が一昨年のブダペスト世界陸上、昨年のパリ五輪と優勝。パリ五輪は2位に4m15と五輪史上4番目、1921年以降では最大差をつけた。カッツバーグの覇権が今年も続くと思われたが、ユージーン大会ではウィンクラーが今季世界最高で、カッツバーグに1m43差で勝っている。

だがダイヤモンドリーグ以外の試合では、カッツバーグがウィンクラーに80~81m台の記録で今季2連勝していた。ダイヤモンドリーグの戦績ではウィンクラーが上だが、五輪&世界陸上での強さを考えると、カッツバーグ優位の評価は覆せていない。

男子円盤投は4月に75m56の世界記録を投げたアレクナが、ユージーン大会に70m97で、ロンドン大会にも71m70のダイヤモンドリーグ歴代最高記録で優勝した。父親のV.アレクナは世界陸上で2個、五輪でも2個金メダルを獲得した名選手。M.アレクナは昨年のパリ五輪2投目に69m97と、父の持っていた五輪記録を8cm更新したが、4投目に70m00を投げたR.ストナ(26、ジャマイカ)に逆転された。

しかし今季のここまでの実績を見る限り、東京では世界陸上親子2代の金メダリスト誕生がかなりの確率で実現しそうだ。

※写真はキピエゴン(左)とチェベト(24年パリ五輪、女子5000m決勝)

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)