「完全に潰れた」前例のない被害状況

上時国家住宅は、入母屋茅葺きの大きな屋根の高さは、18メートル。重要文化財の指定を受けた際には、「近世木造民家の一つの到達点を示す」と評されました。二十一代目当主が、28年をかけて建築したとされ、その巨大さとともに内部は手の込んだ作りが特徴です。

主屋は、地震でつぶれてしまい、今もなお、中にある古文書や調度品を運び出すことが出来ません。

地震で倒壊した上時国家住宅(2024年6月) 提供:時国健太郎さん

「おそらくここまで大規模な民家で倒壊した例はないんじゃないでしょうか。」と話すのは公益財団法人文化財建造物保存技術協会の遠藤優さん。重要文化財に指定されている民家建築としては極めて大きな規模の被害であり、復旧作業においても前例のない困難に直面しています。

文化財建造物保存技術協会は、国宝や重要文化財に指定された建造物の、保存修理を行う際の設計監理業務を手掛ける公益財団法人です。これまで阪神大震災で大きな被害を受けた旧神戸居留地十五番館や、熊本地震で倒壊した阿蘇神社の楼門などの復元を手掛けました。

熊本地震で被害を受けた阿蘇神社(2016年) 提供:文化財建造物保存技術協会

2016年の熊本地震で全壊した熊本県の阿蘇神社は復元までに7年かかりましたが、上時国家住宅には、建築時の詳細な図面が残っていないということがネックとなり11年という工期の長さの一因になっています。

文化財建造物保存協会伝統建築設計課・遠藤優さん「重要文化財で、ここまでの大規模な民家の建築物が完全に倒壊した例というのはないと思います。図面が間取り図しかなく、手探りでやっている部分が多いのです」