初めての妊娠

きみちゃんは、性同一性障害との診断を受け、一度は性別適合手術を受けようと決めていました。

戸籍の性別を変えるため、子宮と卵巣もとる予定でしたが、ちかさんと出会い、考えが変わりました。

「(子宮と卵巣を)とってしまったら、(子どもをもつ)可能性はゼロになる」

戸籍は女性のまま、ちかさんと法律婚をして、自分たちの子ども産む道を選びました。

4年前、きみちゃんのおなかには、ちかさんとの間に新しい命が宿っていました。

「希望にあふれた子に育ち、人を希望に導けるようになってほしい」という想いをこめ、子どもの名前は「羅希(らき)」と決めていました。

しかし、2021年12月28日。きみちゃんはちかさんが立ち会う中で、羅希ちゃんを死産しました。女の子でした。その前の日の検診で、羅希ちゃんの心臓が止まっていることがわかったのです。担当の医師によると、死産は1%ほどの確率で起こる決して珍しくないことで、原因がわからないことが多いといいます。

きみちゃんは、羅希ちゃんとのお別れの前に、手紙を書いていました。

「羅希へ
ぼくたちの間にきてくれてありがとう。うまれてくるのをたくさんの人たちとともにまっていたんだよ。また天国で会おうね。大切で大好きな羅希ちゃん!忘れないよ!!ありがとう!!」

2人はインターネット上で、「ただの変態カップル」「申し訳ないけど気持ち悪い」などの心無い言葉も浴びました。それでもきみちゃんは、こう話していました。

「世間から、父親と母親っていう概念がどうとか、子どもがいじめられるとか、かわいそうって言われてた。そんなことない、そんなことさせない、そうじゃないっていうところを、ちかさんと見せていきたいと思っていた」

その後の、2023年1月3日にはみぃくんが誕生。そのとき2人は、みぃくんを「ぼくたちの2人目の子ども」と紹介していました。羅希ちゃんは2人にとって、大切な1人目の子どもであり、今後もずっとみぃくんとじゅったんのお姉ちゃんなのです。