「対岸の家事」が突きつける現実
田幸 「対岸の家事」(TBS)。この枠はこれまでも家事物をやってきましたけど、ちょっとずつアップデートしている。今回は、今や絶滅危惧種と言われる専業主婦が主人公という点がいいなと思いました。
つまり、仕事、ケア労働としての家事という視点です。これはすごく大事ですし、結局どの道を選んでもなかなか地獄だなと。専業主婦も、兼業のワーキングマザーも、もちろんシングルマザーも地獄じゃんと思ってしまいそうで、結局それは政治の問題だと怒りを感じそうになるんです。
そこにディーン・フジオカさん演じる官僚が出てきて、彼自身イクメンとなり、現場のケア労働に従事している人の大変な状況をじかに見て、その問題意識を政治の方に持ち帰る役目を担う。家事という「ケア労働」に目を向け、個人やご近所、会社などのつながりから政治にまで目を向けさせる複合的な作りが非常にうまいですね。
あと、私が衝撃だったのが、江口のりこさんの憧れの先輩で、バリバリ仕事をしてきた女性の話です。
影山 あれはいい回でしたね。
田幸 はい。組織の中では女性として最高の位置まで来ている。だけれど、私生活よりも仕事を全て優先してきたその人は、会社から女性のロールモデルとしては外されるんです。その一方で「これからの女性のロールモデルはあなただ」と言われるのが、仕事も家庭もどっちも頑張って回している江口さん。
「そんなの聞いてないよ」と思う方がたくさんいると思います。いろんなことを犠牲にして、仕事のために尽くしてきた人を「これからの時代の女性のロールモデルはあなたではない。仕事も家庭もやってきたこっちだよ」とすげかえられる。
女性にとって働きやすい職場だということをアピールするために、私生活を犠牲にした人より、どっちもやってきた人をロールモデルにするというのは、実際に起きている光景なんだろうと思います。そういう組織の残酷さ、社会の変化もしっかり描いていました。私の娘は大手に勤めてるんですが「これって今の本当だよね」と言っていました。
「神説教」と「いつか、ヒーロー」
田幸 「なんで私が神説教」(日テレ)のコンセプトはおもしろかったです。やる気のない教師が主人公で、ほどよい距離感で生徒に接しようとする。「怒るな、褒めるな、相談乗るな」というスタンスの人なんですが、うっかり説教してしまう。でも言っていることはめちゃくちゃ正論で、説教ではなく、最終的には問いかけになっているのが今どきだと思いました。
「御上先生」(TBS・2025)や「宙わたる教室」(NHK・2024)の時にも、今は熱血教師の時代ではなくなっているという話が出ました。まさにそうだなと。この先生も上から押しつけず、問いかけて考えさせる。これが今の教師のあり方の一つのスタンダードになりつつある気がしました。
もう一つ「いつか、ヒーロー」(ABC)が、ヘンな言い方ですが、若干珍味系のドラマでした。
桐谷健太さんの過度な熱量に「何だこれ」と思って見始めたんですが、どういうドラマなのか、なかなかつかめない。桐谷さんがすご過ぎて、そこばかり見てしまうんですが、実は養護施設出身の五人の子どもの物語で、日本社会の構造に切り込んでいく。
違う世代の者同士が共闘したり、自己責任論を批判するところもあって、意外に社会派のドラマだったのかと驚きました。「人生、死ぬまで敗者復活戦」がキャッチコピーで、描こうとしているものは結構現代的でした。