救急の醍醐味と動物病院の実情

大学時代、有藤先生が心惹かれたのは「救急医療」の世界だった。就職先を探すにあたり、「大きな動物病院で夜間救急をやりたい」という憧れを持ち、24時間診療を行っている動物病院を探していたという。

「ドラマでも救急医療ものが大好きで憧れていました。大学時代に“東京 夜間 動物病院”といったキーワードで検索して見つけたのが当院でした。実習に行ってみたら、自分のやりたいこととマッチしていた。ここで働こうと自然に決めました」。

実際の現場は大変ではあるものの、思い描いていた通りのやりがいを感じられる日々だった。

「夜間に3頭くらい命を落としてしまう日もあれば、とても平和な日もある。救える命と救えない命がある中で、すぐに次の救急外来が待っているから悲しみに浸っていられない。その感情の起伏が一番大変です。日中でも大事な命を救えなかった直後に、愛犬のワクチン接種に来たご家族に明るく対応しなければいけないこともあって、その心のギャップは大きいですね」。

それでも、有藤先生が前向きに仕事に向き合い続ける理由は、「感謝される瞬間」の重みだという。

「夜間に診てくれる動物病院が他になくて、当院に来てくれたご家族が“ここがあって良かった”ってほっとされるんです。その瞬間に、やっぱりこの仕事をしていて良かったなと強く思います。忙しくてもアドレナリンが出るようなやりがいがある。私はあまり夜間勤務をネガティブに捉えたことはないんです」。

現在は、新卒以来ずっと在籍してきた病院で、本院の院長を務めている。夜間救急を支える体制を維持するためには、人財の確保と育成も欠かせない。

「当院は獣医師が35人ほど在籍していて、スタッフ全体では80人〜90人弱います。全国の獣医系大学を回ってリクルート活動も。当院の理念に共感してくれる人たちを見つけて実習に来てもらい、病院の雰囲気とマッチするかを見ていく。そのうえで、“ここで働きたい”と思ってくれる人を迎えるようにしています」。

技術の向上はもちろんのこと、理念を共有する仲間を育てることも、院長としての大きな役目だ。

「病院に合った価値観、例えば“24時間看護・治療体制は大事だ”とか、“動物にもご家族様にも温かく接する”といったことを、きちんと理解してもらえるよう教育しています。スキルだけではなく、考え方の部分を伝えていくのが一番難しいですが、大事なところですね」。