返ってきたのは意外な反応

「お願いします。このままでは、多くの仲間の体力がもちません。飢えで痩せて死んでしまいます。どうか、仲間を助けて下さい。まずは食事の量を増やして下さい」
地べたに這いつくばるような無様な姿だった。そこには日本兵の矜持など存在していなかった。考えている余裕などなかったというのが正解かもしれない。仲間を助けたい、自分も助かりたい一心の命乞いだったのだから。土下座しながら目をつぶっていると、意外な反応が返ってきた。
「あなたは、面白い日本兵だ。ロシア語を独学で覚えるし、敵のソ連兵に土下座までするし…本当に日本兵か。こんな日本人を見たことがない…たいしたものだ」
その様子を見た所長は、驚きを隠せなかったようだった。春男さんは「敵対心しか持たれていないだろうと想像していたソ連兵からすれば、好意の現れと思ったのだろう」と回顧していた。