■調査報道をなぜいま?中東で感じた意義

ーー2021年、TBS報道局では『調査報道ユニット』ができました。なぜいま改めて調査報道が注目されているのでしょうか?

調査報道が、今の時代に求められている記者のプロフェッショナルとしてのスキルだからだと思います。

かつてはメディアが情報発信を独占していたので、広く情報発信できること自体が記者に特別な地位を与えていたように思いますが、ネットやSNSが広がり、みんなが発信できる時代になりました。情報発信は独占的ではないし、速報性では現場にいる人が発信したら、記者の取材は二番煎じになるわけです。

そんな中で、大量の情報の中で真実性の裏付けをとっていく調査報道のスキルは、記者の専門性が必要なことです。あふれる情報の中で事実の裏付けを取り、多角的に真実を浮かび上がらせて社会に提示するのは、記者だからできることだと思います。

もう一つは、ウクライナ情勢でも問題になっていますが、フェイクニュースが広がるなかで、調査報道という手法で真実性を固めていく報道の仕事がより求められていると感じます。

私は2015年から中東支局で特派員を経験しました。実はそこで初めて報道がしっかりしていない社会が、どれだけもろくなってしまうかを実感しました。

2015年 中東支局時代に「イラン革命記念日」の式典を取材
フェイクニュースや、フェイクニュースにならないまでも報道機関が偏ってることが中東では多くありました。あのテレビ局は偏った放送をする。この新聞は政府系の新聞。そんな社会では、市民は報道されていることを信頼してないし、常に色眼鏡で情報を読まざるを得ないんです。

何が本当かわからない社会のもろさを見て、社会の強靭さやしなやかさを保つには報道記者が真実に誠実で、視聴者との間の信頼関係を結び続けることが大切だと実感しました。

2021年「news23 調査報道23時」でコロナ補助金不正グループの頂点を直撃取材

日本は調査報道という営みの許される社会です。そして、自分はそういうことができる立場で、それをやらないといけないと思っています。正直言って、コストもかかるし、リスクも高いし、調査報道ってなかなか続けるのが大変な取り組みなんですが、何とか持続可能な取り組みにしなくてはいけないと思っています。



【プロフィール】
▼村瀬健介
2001年TBS入社。記者として、警視庁、司法、宮内庁などを取材。その間「news23」、「報道特集」などの番組も担当。15年からアフリカと中東を担当する中東支局長に。2019年3月帰国後は「news23」の取材・フィールドキャスターを務め、現在は「調査報道ユニット」キャップ。