「アンパンマンのアンパンマンです」――。ある日かかってきた一本の電話が、国民的ヒーローとの長い旅路の始まりでした。俳優、そして声優として第一線で活躍し続ける戸田恵子さんが、知られざるデビュー秘話から、30年以上演じ続けるアンパンマンへの想い、そして話題の朝ドラ『あんぱん』への極秘出演の裏側を語りました。
(TBSラジオ「パンサー向井の#ふらっと」6月26日放送分より抜粋)

「アンパンマンのアンパンマンです」国民的ヒーローとの出会い

「それいけ!アンパンマン」のアンパンマン役を36年以上務めている戸田恵子さん。その出会いは意外な形だったと語ります。

「アンパンマンはね、オーディションには行ってないから」と戸田さん。事務所から「今度アンパンマンがレギュラーになりますので行ってください」と電話があったそうで、「アンパンマンの何ですか?」と尋ねると、「アンパンマンのアンパンマンです」との返答。「もう忘れもしない、あの電話一本はね」と当時を振り返ります。

他の出演者はオーディションで役を得ていたそうですが、戸田さんは「デモテープを監督とやなせ先生が聞いてくださって、『戸田さんでいこう』って言ってくださったんだって」と、後から知った事実を明かしました。

やなせたかしさんからは、初回の収録時に「かっこいいヒーローだと思ってやらないでください。世界で一番かっこ悪いヒーローです。顔をちぎって食べさせるともうダメになりますから。そこを踏まえてやってもらいたい」というアドバイスがあったそうです。

15歳で単身上京 波乱万丈のキャリアスタート

愛知県出身の戸田さん。芸能界入りのきっかけは、10歳か11歳の頃、戸田さんの母が新聞で見つけたNHK名古屋放送児童劇団の募集でした。「なんかそういうの好きそうだから、受けたらどうだって言ってくれて」。すぐさま『中学生群像』(『中学生日記』の前身)に小学生でありながら中学生役で出演。劇団の先輩には竹下景子さんもいたそうです。

そして15歳で単身上京。「1人で東京で暮らせるなと思ってウキウキして。すぐに売れると思ったもんだから」と、当時の心境を「全然不安はなかった。親も親だと思いますけど、よく出しましたよね」と笑顔で語ります。

1974年には「あゆ朱美」として演歌歌手デビュー。しかし、「売れないなっていう感じは背負いつつ」と当時を述懐。歌の仕事よりもコント番組への出演が増え、伊東四朗さんや小松政夫さんの背中を見て「コメディエンヌになりたいって10代の時に思った」と、意外な転機を明かしました。新沼謙治さんのショーで「中歌」として全国を回り、月曜の朝に夜行列車で上野に着いてそのまま高校に通うというハードな日々も送っていたそうです。