去年の兵庫県知事選挙を巡り斎藤元彦知事とPR会社の社長が先週、書類送検されました。問われたのはSNSを使った選挙運動です。何が選挙違反に当たるのか、取材を基に考えます。
「機械的な作業なのか?」映像などから独自検証

公職選挙法では、ポスターの印刷など機械的な作業のみを行う場合、報酬の支払いを認めている。だが、機械的な作業ではないものに報酬を支払うことは、公職選挙法の「買収罪」となるおそれがある。
一つ目のポイントは、「メルチュの行為が機械的な作業だったのか」どうかだ。
「報道特集」は選挙中のSNSの映像などから、選挙戦へのメルチュの関与を独自に検証した。
2024年11月16日、兵庫県西宮市で撮影された映像がある。この日は投票の前日で、聴衆を前に斎藤氏が街頭演説をしている。
斎藤氏のすぐ隣には、スマートフォンを構える女性の姿が。書類送検されたPR会社「メルチュ」の社長・A氏とみられる。

別の写真からは、スマートフォンで斎藤氏を撮影しているのがはっきりと確認できる。斎藤氏の公式SNSにアップされた映像とリンクさせると、カメラの動きや角度から、この公式映像はA氏のカメラが撮影したものだということがわかる。
同じ日の夜、公式SNSで配信された演説も、A氏が撮影したもののようだ。
A氏は兵庫県西宮市出身。PR会社「メルチュ」を立ち上げ、兵庫県など自治体からの依頼で、SNSを使った地方創生事業などに関わってきた。
兵庫県知事選への関与については、自身のYouTubeでこう話していた。

A氏のYouTubeより(現在は非公開)
Q.何されてるんですか?実際
「実際ですか?広報全般を任せていただいておりまして、ポスターを作ったり、ビラを作ったり、SNS運用をやったり、YouTube運営をやったり、本当にこう選挙って、広報の総合格闘技やなっていう風に思うんですけれども、その格闘技で今最前線でこうやってやってる感じで…」
「広報全般を任せていただいた」と、A氏は笑顔で話していたのだ。

A氏が発信するSNSの一つに「note」がある。斎藤氏が出直し選挙に臨むと表明した3日後、2024年9月29日の写真には「merchuオフィスで『#さいとう元知事がんばれ』大作戦を提案中」とのキャプションがつけられていた。
ほかにも「SNS運用フェーズ」という提案資料が紹介されており、投票日までを3つの時期に分け、戦略を立てていたことがうかがえる。

A氏のnoteより
「まず、プロフィール写真の撮り直しからスタート。全ての告知物に使われる重要な写真なので全員で念入りにチェック」
「SNS運用。私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定(中略)などを責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用していました」
「#さいとう元知事がんばれ」のハッシュタグはA氏が生み出し、斎藤氏に提案したという。斎藤氏が見つめるモニターにも、こうしたSNS戦略の資料が映し出されているようだ。
A氏のnoteより
「ハッシュタグについて。『元知事がんばれ』としたのも、こだわったポイントです。ここは、ご本人も気に入っていました!」

このハッシュタグは、Xの公式応援アカウントが立ち上がった頃から広がり始め、5万件以上投稿された日もあった。こうした成果をA氏はアピールしていた。
A氏のnoteより
「『400人のSNS投稿スタッフがいた』という『デマ』がさも事実かのように流されてしまい、驚きを隠せないと同時に、『私の働きは400人分に見えていたんや!』と少し誇らしくもなりました。そのような仕事を、東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手掛けたということもアピールしておきたいです」
メルチュは、機械的に作業していたのではなく、SNSの主体的な運用を任されていたのだろうか。
斎藤元彦知事の代理人 奧見司 弁護士
「SNS戦略を依頼したということや、広報全般を任せたということは事実ではありません」
実は問題発覚後、A氏のnoteからは、メルチュの主体性をうかがわせる記述が次々と修正されていた。

「merchuオフィスで『#さいとう元知事がんばれ』大作戦を提案中」は、「merchuオフィス」がただの「オフィス」に修正。「大作戦を提案中」が「説明中」に修正。「SNS運用フェーズ」の提案資料と「広報全般を任せていただくことになりました」という記述は、丸々なくなっていた。
斎藤氏の選挙戦略にはA氏のほかにも、もう一人カギを握る人物がいた。初当選の時から斎藤氏の選挙をサポートし、メルチュにも同行していた男性・B氏だ。B氏は斎藤氏の陣営で選挙対策を率いてきた。
