ロシアの人気コメディ映画『パリのキッチン』(2014年)に次のようなシーンがある。(そっくりさん扮する)プーチン大統領がセーヌ川に浮かぶクルーズ船上でフランス大統領を高級料理でもてなし、両国間の懸案を一気に解決する…

プリゴジン氏(左)とプーチン氏(2011年)


セーヌ川ではないが、実際にプーチン氏は故郷サンクトペテルブルクを流れるネヴァ川に浮かぶ水上レストランを外交の舞台に使ってきた。フランスのシラク大統領やアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領らを夕食に招待。写真の中でプーチン氏の後ろに立つ人物が、レストランのオーナーで「プーチンのシェフ(料理人)」と呼ばれる実業家エブゲニー・プリゴジン氏(61)だ。

プーチン氏とブッシュ夫妻(2002年)

■“コネ”と“汚れ仕事“でクレムリンに浸透

ロシアの独立系メディアが入手した裁判記録によると、プリゴジン氏は旧ソ連時代に窃盗や詐欺などの罪で9年間を刑務所で過ごした。その後、1990年代にホットドッグ屋台を振り出しにレストラン経営にまでビジネスを拡大。客として店を訪れた当時サンクトペテルブルク副市長のプーチン氏と親しくなったと報じられている。しかし、筆者の知人で当時の事情に詳しい現地の会社経営者に聞くと、事実は異なるようだ。

サンクトペテルブルクの貿易会社社長
「プリゴジンはカジノ経営への参入を通じてプーチンと知り合ったのです。当時、許認可は副市長が握っていました。だから、市内のカジノ経営者はプーチンと同じKGB出身者が多かった。そして、店の安全を確保するためには組織犯罪グループや、彼らとつながりのある警備会社の協力も不可欠でした」

2000年にプーチン政権が誕生すると、プリゴジン氏は軍や学校の給食事業から大統領の晩餐会の配膳サービスまで一手に引き受け、新興財閥=オリガルヒの1人に成り上がった。同時にクレムリンの意向に沿う非合法活動にも乗り出す。後に民間軍事会社「ワグネル」になる雇い兵集団や、インターネット・トロール会社「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」の創設だ。