土江寛裕コーチが語る24年と25年の違い

栁田を指導する東洋大の土江寛裕コーチ(50)は、GGPの走りを「スタートを低い姿勢で出られましたし、その後の加速も良くなっていました」と説明した。その走りができれば60mまでに決着をつけられる、と考えていた。

昨年の栁田は4月に10秒02(追い風1.7m)の自己タイこそ出したが、日本選手権は10秒14(向かい風0.2m)で、2位と同タイム(0.001秒単位では0.005秒差)の3位で100mのパリ五輪代表を逃した。4×100mリレーで代表入りはしたが、決勝のメンバーから外れてしまった。「日本インカレはなんとかまとめましたが、持ち味の後半の伸びが見られず、100点ではありません。年間を通して良い走りがなかったですね」

23年アジア選手権(タイ・バンコク)の走りが、これまでの走りでは「100点だった」という。決勝を10秒02(無風)の自己記録で勝ちきったが、向かい風0.5mの予選を10秒10で走ったときが内容としては良かった。8月のブダペスト世界陸上は準決勝に進出し、4×100mリレーでも2走で5位入賞に貢献した。

「栁田は中学から高校の途中まで走幅跳が専門の選手でした。高校時代の日本選手権はスタートでリードされて、大きいストライドで後半追い上げていましたね。東洋大入学後に前半の弱点を克服した上で、トップスピードでは大きすぎるストライドからピッチを高める走りに変えて、上手く行き始めたのが23年でした」

しかし昨年は「ピッチに寄せすぎて、ストライドを生かした強さが消えていた」という。「23年は1歩1歩をしっかり走ることで、後半になると自然に脚が速く回る走りでした。昨年は他の選手に追い上げられて、頑張って脚を速く回す走りでしたね」その課題を克服するために、冬期は「筋力アップを重点的に行った」という。大谷翔平(30)も使っていることで話題になったトレーニング器「1080SPRINT」(テンエイティ・スプリント)を、最大負荷の「15kg」で行った。他の選手は高くても12kgだという。

そして23年の走りを上回るには、60m以降の走りも重要になる。今回も60mまでに決着をつけただけでなく、「60m以降もストライドで走っていた頃の良さが戻りそうな感じ」を土江コーチは見て取った。「ストライドが大きかった頃は、上半身が暴れるような動きがありました。昨年まではその動きをしないように走ってきましたが、今年はあえて、そこをやろうとしています」

足首とヒザを固めた動きが、後半の走りに生きる可能性がある。東洋大のグラウンドはインフィールドを、昨年天然芝に張り替えた。「硬い路面で練習をすると、ヒザや足首を柔らかく使うことになりますが、柔らかい場所で行うとヒザや足首を固めて使う動きができます」。足首を半固定する目的で、足首とシューズをつなぐ用具も使用している。