音の“雑味”を信じる

整った音、きれいな旋律だけでは物足りない――木村氏の音楽には、時にラフで人間味のある“雑味”が宿る。こうした制作の中で、常に意識せざるを得ないのが「木村さんらしい音楽」という言葉への向き合い方だという。
「“木村さんらしい曲を”と伝えられることが増え、自分らしさって何だろう?と考える機会も増えました。ジャンルも作品のトーンも毎回違うので、自分の中に明確な“型”があるわけではないんです。ただ、いろいろな現場で積み重ねてきたものが、自然と音ににじんだ結果が自分らしさになっているのかなと思っています」
10代の頃、木村氏が親しんでいたのは、洋邦楽問わずバンドサウンドだった。FMラジオを通じて海外のマイナーなロックバンドを探し、人があまり知らない音楽を聴くことにも夢中になったという。「音楽的な出自は結構そこに出ているような気がしますね」。その感覚は、録音やアレンジにも自然と表れている。ギターが好きで、劇伴でも積極的に取り入れている。
「自覚はないんですけど、“この曲、ちょっとゴリゴリしているね”って言われることもあって(笑)。映画『トリリオンゲーム』のときは特にロックっぽい音が強かったですね。あれは作品の勢いにも合っていたし、自然と自分らしさが出たのかもしれません」

演奏においても、木村氏は「完璧さ」より「人間らしさ」を重視する。
「完璧すぎる演奏よりも、ちょっと不完全な方がグルーヴ感が出る気がするんです。ぐっとくる演奏だったら、多少のズレがあってもOKを出すことが多いですね。小さなヨレが集まることで生まれる本格的なうねり。それが、自分の劇伴の特徴かもしれません」
技術的な完成度以上に、感情や手触りを優先する。そこに、木村氏の音楽が持つ温度と輪郭が宿っている。