日劇ならでは。録音現場で仕掛ける“もう一段階”の工夫

日曜劇場『キャスター』より

日曜劇場の劇伴制作において、木村氏が特に意識しているのが、録音時の熱量を放送時にも“そのまま届ける”ことだ。

「録音現場で聴くと、音も大きいし、演奏にも熱があって、すごく感動できるんですよ。でも、それが編集を経てセリフや効果音と重なると、だんだん感動が薄れていってしまう。だからこそ、最初の演奏の段階から、フルボリュームでやってもらうようにしています」

録音中、演奏者にはよく「フォルテをもう1段階上げてください」と伝えるという。ドラマ全体のバランスに埋もれてしまうことを見越して、あえて初めから一段階強く、熱を込めて演奏してもらう。その積み重ねが、最終的にお茶の間に届く音になる。

「日曜劇場では、ほかの現場以上にそういうお願いをしています。“もっと大きく”“もっと熱く”って、録音中かなり意識していますね。ほかではあまり言わないけれど、この枠ではそれが必要だと感じるんです」

音の“迫力”だけでなく、“届くための密度”をどう保つか――。それは木村氏にとって、作品と視聴者をつなぐ最後の橋渡しでもある。

日曜劇場『キャスター』より

録音現場での細かな調整から、シーンごとの温度差への対応まで──。木村氏の劇伴制作は、映像にただ寄り添うのではなく、作品のトーンや構造を緻密に読み解いた上で成り立っている。主張を抑えた音のあり方、言葉を邪魔しない距離感、そして重層的な物語に対応する柔軟さ。そうした姿勢の積み重ねが、“報道”という題材にふさわしい劇伴として厳かに機能している。