崎山は自分の力を発揮して標準記録も

男子やり投は崎山雄太が82m96と、2年前にマークした83m54(日本歴代5位)に迫る好記録で優勝した。

﨑山雄太

「国内最初の試合ですが、自分の出せることをやれば勝ち切れると思っていました。結果として優勝となったので、まずは自分を褒めたいですね」

4回目までは76m51で4位だったが、5回目の80m87でトップに立つと、6回目に優勝記録を投げてダメを押した。5、6回目でやりたい動きができたという。ここ数年、大きなところでは「やりたいことは変わっていない」が、細かい部分では「1つ前の動きや、意識している部分が毎年変わってくる。テイストが違ってきます」という。

「今は右の腸腰筋、背筋あたりをどうやって押し込めるか、を意識しています。(最後に左足をついて)耐えた瞬間にどれだけ胸を張れるか、ゆとりを持てるかで、腕をどれだけ振れるか、速さを求めて出せるかが決まってきます。1~4投目はそれができず、結果的に左に開いて投げていました」

5、6投目も多少は開いていたが、特に6投目はなんとか形にできたという。

「GGPは83~84mの外国勢が来ますが、そこで戦えないとアジア選手権(5月末・韓国クミ)や世界陸上では戦えません。相手との戦いでもあるんですが、自分がどれだけ力を発揮できるか。そこがGGPでは求められます。標準記録(85m50)くらいは投げたいですね」

23年のブダペスト世界陸上では右脚脛の疲労骨折が現地で判明し、力を出せずに予選落ちした(記録なし)。「世界での借りは世界でしか返せません。あの時の負けがあったから、ここまで戻って来られた、と思える結果を東京世界陸上で出したいですね」。その目標に向かってGGPからアジア選手権、そして世界陸上と突き進む準備が整いつつある。

田中は新技術獲得と標準記録突破を狙う

100mハードル予選で田中佑美は12秒91をマークした。ここ数年雨になることが多かったが「やっぱり晴れた織田記念は良いですね」と、記録には満足している様子。12秒91は4月に出した自己最高記録である。

今大会出場の狙いは、晴れていたら記録を出すこと。そして「追い風で記録が出る織田記念なので、それに乗って新しい技術のきっかけをつかむこと」だった。田中の特徴は足首の強さで、「バネバネしく走れるところ」だが、地面反力を「足首で止めてしまって、足首の反力で進んでいる」ところは、世界レベルで考えるとマイナスだととらえ始めた。「脚全体、体全体を使って加速していく技術」を獲得しようとしている。

予選で合格点のタイムは出たが、右脚に違和感が出て決勝は棄権する判断を下した。「予選を走っても、まだ技術は獲得し切れてはいません」。5月は11日の木南記念にもエントリーしているが、出場は今後の状態を見て判断する。18日のGGPと月末のアジア選手権は出場予定だ。「記録は、こういうことができれば何秒、という指標が自分の中にないので、GGPも数字は言えませんが、予選の走りで12秒91なら、もっとタイムは出るだろうな、と感じました」。

世界陸上標準記録は12秒73で、決して手が届かないタイムではない。東京2025世界陸上の選考基準は、従来のものよりも標準記録を突破しておけば有利になる。「ここ数年、メンタルがキツい中で日本選手権を走ってきたので、できれば標準記録というアドバンテージを持って日本選手権に臨むことが良い形ですね」。出場外国勢が未発表だが、格上の外国選手が出場したら思い切りぶつかればいい。“負けられない”日本選手権とは違ったメンタルで戦うことができる。

織田記念では、基準ワールドランキングで各種目の世界陸上出場枠に入っている選手が活躍した。以下が4月30日時点のワールド基準ランキング順位と出場枠人数、選手、織田記念成績である。

26位(36人)高島真織子<女子三段跳優勝>
18位(36人)崎山雄太<男子やり投優勝>
22位(40人)田中佑美<女子100mハードル予選1位>
13位(36人)上田百寧<女子やり投優勝>
14位(36人)武本紗栄<女子やり投2位>
27位(36人)新家裕太郎<男子3000m障害優勝>

全員がアジア選手権代表で、新家以外はGGP出場が発表されている。新家も追加でGGP出場が認められるかもしれない。

GGPで標準記録突破の可能性がある選手もいるが、多くの選手は標準記録突破に挑みつつ、ワールドランキングのポイントが高いGGPとアジア選手権で上積みをしていく。東京2025世界陸上出場へのプロセスを理解して、GGP、アジア選手権、日本選手権と続く今季の陸上競技を楽しんでほしい。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)