超人たちが34年ぶりに東京へ!今年9月に開幕する「東京2025世界陸上」を前に、これまで歴史に名を刻んだ伝説のアスリートたちを紹介する。
走高跳のムタ エッサ・バーシム(33、カタール)は男子走高跳において、最も偉大な選手のひとりだ。世界陸上ではロンドン大会(2017年)、ドーハ大会(2019年)、オレゴン大会(2022年)と前人未踏の三連覇を成し遂げ、五輪でも金メダル1個と銀メダル2個を獲得。東京オリンピック™ でのジャンマルコ・タンベリ(イタリア)とのダブル金メダルは記憶に残る名場面となった。偉業を成し遂げたバーシムは、カタール政府から900㎡、5LDKの大豪邸が贈られるなど、国民の英雄的存在に。大怪我からの復帰、地元開催、連覇へのプレッシャー・・・数々の困難を乗り越えた天才ジャンパーが歓喜した大会とそのルーツに迫った。
地元・ドーハでの劇的な世界陸上連覇達成
「とても素晴らしいよ。これは僕のキャリアのハイライトだ。母国で多くの人たちの前でまた世界チャンピオンになれてうれしいよ」
2019年の世界陸上はバーシムにとって、地元・ドーハで行われた特別な大会だった。2017年に初の金メダルを獲得し、世界陸上での同種目連覇という大きな目標も背負っていた。大会の1年前には足首の靱帯を断裂するという大けがを負い、それを乗り越えての出場だった。
大歓声のスタジアムでバーシムが見つめる先のバーの高さは2m19。これを1回で成功させると、その後も順調に2m30まで跳んだ。しかし、次の2m33の壁は厚かった。怪我の影響か、それとも連覇へのプレッシャーか。普段なら難なくクリアできるはずの高さで、2回連続失敗した。
土壇場で迎えた3回目はそれまでとは明らかに異なる跳躍を見せ、見事に成功。その瞬間、渾身のガッツポーズが飛び出した。2m35をクリアした直後、観客は暖かい光景を目にした。試技を終えた選手たちが次々とバーシムを抱きしめに駆け寄ったのだ。その中にはライバルであり、大親友でもあるジャンマルコ・タンベリ(2m27の8位タイ)の姿もあった。
仲間たちの温かい激励を受け、臨んだ2m37の1回目。完璧な跳躍でクリアするとスタジアムは歓喜に沸いた。この高さをただ一人成功させたバーシムは、地元の大観衆が見守る中、世界陸上連覇という歴史的な偉業を成し遂げた。
バーシムは「とても素晴らしいよ。これは僕のキャリアのハイライトだ。母国で多くの人たちの前でまた世界チャンピオンになれてうれしいよ」と語った。
才能を開花させたトップジャンパー・バーシムの原点
バーシムはこれまでにオリンピックで金1個を含む4つのメダル、世界陸上では金3個を含む5個のメダルを獲得している。自己ベスト2m43は歴代2位の好記録。これは男子バレーボールのネットと同じ高さだ。
バーシムの強さと驚異的な跳躍力の原点は、カタール政府が設立したアスリート育成機関「アスパイアアカデミー」にある。豊富な天然資源を背景にカタールが総工費1000億円以上をかけて、2004年に設立したこの広大な施設(東京ドーム53個分)で、バーシムは1期生として、世界トップレベルの指導を受け、その才能を開花させた。
バーシムの功績を称え、カタール政府からは褒賞として900㎡、5LDK(バスルーム4つ)の大豪邸が贈られた。バーシムは「施設、授業、医療、コーチなど全てがすべてが素晴らしい。ここまで来られたのはカタール政府と国王の手厚い支援のおかげです」と語っている。

















