ターニングポイントはどこだったか

 TVerの成長のターニングポイントはどこにあったと思いますか?

蜷川 いくつかありますが、特に2022年のフジテレビのドラマ「silent」の成功は大きかったですね。あれで僕らの命は繋がったなというぐらいです。

それまでは、視聴率の高い番組が配信でもいい数字を取るのが当たり前でした。ところが「silent」は視聴率は必ずしも高くはないけれど、配信では毎週数百万回見られました。制作者からも「TVerでたくさん見られたおかげでこの作品の価値がすごく向上した」と喜んでもらえました。

またこの時初めて「1〜3話配信」を実施しました。放送の3話目のタイミングで1話から見られるようにしたことで、視聴者が追いつけるようになったのです。

 確かにあのドラマを機に最初から最後までTVerで見る若い人が出てきました。逆に失敗したと思う取り組みはありますか?

蜷川 2022年のアプリリニューアルは「大空振り」でしたね。いわゆるセレンディピティ(注)、番組との偶然の出会いを演出するためにアプリのコンセプトを変えたのですが、ユーザーが迷子になってしまい、なかなか刺さらなかったんです。

(注)セレンディピティ…偶然の出会いや発見がもたらす幸運。または、幸運な偶然を引き寄せる力。

 当時SNSで軽く炎上していたのを覚えています(笑)。成功事例としては他にどんなものがありますか?

蜷川 2024年のオリンピック配信もTVerの存在感をいっそう高めたと評価しています。マーケティング的な意味でも大成功でした。

TVer提供の2024年のリアルタイム配信、ライブ配信の1日あたりの再生数。オリンピック期間は非常に高かった。

開けばすぐに動画が流れるFASTスタイルは?

 海外で普及しているFAST(Free Ad-Supported Streaming TV)のような、開けばすぐに動画が流れるスタイルについては、どのように取り組んでいますか?これはInter BEEに登壇いただいた時、「TVerでやります!」と宣言していたので今日、突っ込みたかった事でして(笑)。

蜷川 「一部動き始めたけれども、これから」というのが現状です。いまニュースの24時間配信はやっていますが、アプリを開けばすぐではありません。

引き続き検討していて、必ずしも番組をフルに観ていただく方法でなくとも、流行りのショートコンテンツみたいに、トピックスを縦型にして、連続的に再生するのかもしれない。そういうスタイルで、気軽に来て体験してもらえる形は、今考えています。

 実現する上での課題は何でしょうか?

蜷川 オンデマンドで根付いているので、どういうコンセプトがいいのかと、どういうマネタイズがいいのかの検討が必要です。バラエティチャンネルやスポーツチャンネルなど、パッと立ち上げたら見られて、もっと見ようと思えば最初から見られるようなことは多分できると思うのですが、公開期間が基本1週間しかない制約もあります。

 継続視聴への取り組みは進めていますか?「滞留型」にしたいとの話はかなり前からありますね。

蜷川 見始めたらずっと見てもらえる工夫はもう始めています。再生終了後に、 レコメンドが出てきてそのまま連続再生する機能をテレビデバイスで実装していて、PCやスマートデバイスでも、展開していきます。